僕と僕らの僕僕先生

薄妃の恋―僕僕先生

薄妃の恋―僕僕先生

待ちかねた。
まさにその一言に尽きる。
第18回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作『僕僕先生』刊行から1年10ヶ月。その間、美少女仙*1僕僕先生と、ニート青年王弁のことを忘れた日は一日たりともなかった……というのは嘘だが、かなり早い時期から続篇が噂されていたのになかなか本が出ないことにやきもきしていたのは本当だ。
その間に仁木英之の本は『飯綱颪―十六夜長屋日月抄』と『夕陽の梨―五代英雄伝』が出ている。どちらも『僕僕先生』とはかなり雰囲気の違う小説で、作風の幅の広さを示している。それは非常に結構なことだが、『僕僕先生』の代わりにはならない。ただ唯一、昨年発表された短篇「落神賦」は『僕僕先生』と似た味わいをもっていて、一時、渇を癒すことができた。
今年に入って小説新潮に『僕僕先生』シリーズの短篇「羊羹比賽」が掲載されたが、その頃には「ここで読んでしまっては負けだ。一冊の単行本にまとまってから読もう」という気になっていた。何が「負け」なのかは不明だが。その後、同じく小説新潮に「飄飄薄妃」が掲載され、この2篇に書き下ろし4篇を加えた6篇からなる短篇集『薄妃の恋 僕僕先生』が先月ようやく刊行された。
前作『僕僕先生』のラストで主人公の王弁が僕僕先生と別れてから5年後*2、再び2人は旅に出る。特に目的もなく悠々とのんびり旅する2人が行く先々で体験する、奇妙でおかしくて時には少しほろ苦いエピソードが綴られていく。ジェットコースターノベルのようなスリルはないが、その代わりに鄙びた温泉宿でのんびりとくつろぐような安らぎがある*3
前作では僕僕先生のキャラクターを立たせるエピソードの数々によってライトノベル的な萌えがたっぷりと濃厚に含まれていたが、今回は2人はどちらかといえば傍観者の立場で各話の主人公に絡んでいくスタイルをとっているため、あまり萌え要素は強くない。また、今後もシリーズを続けていくためにはあまり2人の仲を接近させ過ぎるわけにはいかないという大人の配慮もあるのだろう。その点でややもどかしさがないではない。しかし、(タイトルは伏せるが)某シリーズの2人組の旅人のように、相思相愛らぶらぶ状態にまでなっていながら寸止めのまま旅を続けているという著しく不自然な状態を回避する策としては適切だと思われる。
今回のタイトルにもなっている薄妃は第3話の「飄飄薄妃」で、ちょっとアレな感じの登場をしたあと、意外にも旅の仲間に加わることになる。この役どころは(タイトルは伏せるが)某シリーズでは例の神学生の少年に相当する。だが、あっちは単なる同衾ストッパーであるのに対して、薄妃のほうは単独でも主役を張れるほどの強烈なキャラクター*4だ。(タイトルは伏せるが)某シリーズにも、薄妃くらいインパクトのあるキャラクターがいればよかったのに。
さて、総タイトルが『薄妃の恋』なのだから、薄妃とその恋の相手を巡るお話の起承転結が語られるかと思ったのだが、最後まで決着がつかずに次巻に持ち越しとなる。これもちょっと意外だった。かくなる上は、可及的速やかに続篇を出してもらいたいものだ。(タイトルは伏せるが)某シリーズの作者なんか、書けば書くほど枚数が減るという呪いを受けながらでも4ヶ月ごとにコンスタントに新刊を出しているのだから、『僕僕先生』でも不可能ではないはずだ。
次は2年近くも待たされることのないことを切に祈りつつ、続刊を待つことにしよう。

*1:ただし少女に見えるだけで実年齢は相当アレらしい。

*2:空白の5年の間にも王弁は冒険しているようだが、その詳細は語られていない。いずれ番外篇の形で公表されることだろう。

*3:ただし、僕僕先生の入浴シーンはありません。

*4:中国の昔の志怪小説か何かに元ネタがあるのではないかと思うが、もしそうなら一度読み比べてみたいと思う。