餅とゼリーとカルチャーショック

死亡事故をきっかけとしたこんにゃくゼリー製造中止について、あちこちでいろんな人が意見を述べているが、なかでも餅を引き合いに出している記事が目についた*1、というか引っかかった。
えっ、餅ってふつう自分のうちでついて食べるものでしょ? 商品として売っているのを買って食べるこんにゃくゼリーと比較するのは違うんじゃないかな。
もちろん、スーパーに行けばパックに入った餅が売られているのは知っている。でも、それは忙しくて餅をつくことができない、とか、一人暮らしで餅をついても食べきれないとか、そういった事情がある人が買うものであって、日本の食文化における餅本来の姿ではない*2。餅米を蒸して、杵と臼でついて丸めて食べる*3のが餅だ。最近では餅つき機という便利なものができたせいで昔ながらの杵と臼を使う家は減ってきたが、でも本質的な違いはない。餅は家庭料理だ
……という認識だったので、今回の事件を巡るネット上での反応には、えらくギャップを感じたものだ。
余談だが、大阪では多くの家にたこ焼き器があり、たこ焼きを家庭料理として食べているそうな。また、「日本では家庭で使うための石焼きビビンバ用容器をデパートで売っている」と言うと韓国の人はびっくりする、という話をどこかで聞いた*4ことがある。
食文化はなまじ日常生活に密着しているだけに自分の習慣が世間の常識だと思いこみがちで、何かのはずみにギャップを感じたときのショックが大きい。「目玉焼きにかけるのは醤油かソースか」という論争に触れて「えっ、ケチャップでしょ?」とびっくりする*5ような。そう考えると、今回の餅の件も「よくある話」のひとつなのかもしれない。

*1:たまたま対照的な主張の記事を見つけたのでリンクしたが、このふたつの記事についてことさらどうこう言うつもりはありません。念のため。

*2:ただし、餅は餅でも、餡を使った菓子としての餅は昔から店で売っていたので、一般に「餅は買って食べるものではない」と言えば嘘になる。

*3:切り餅の風習のある地方ではもう一工程加わる。

*4:ビビンバ - Wikipediaによれば、石焼きビビンバは日本で生まれて韓国に逆輸入されたものだそうなので、家庭への浸透の程度が異なっているのかもしれない。

*5:これはたとえ話であり、実際に目玉焼きにケチャップをかけて食べたりしているわけではない。当たり前のことだが、目玉焼きには金山寺味噌を塗って食べている。