夜空に満天の星
- 作者: フレドリック・ブラウン,田中融二
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/09/05
- メディア: 文庫
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中学生の頃ブラウンの短篇が大好きだったので、創元推理文庫の短篇集*3は全部読んだが、長篇はあまり面白くないという評判だったのでほとんど手を出していない。確か『シカゴ・ブルース』と『殺人プロット』だけのはず。いや、『彼の名は死』も読んであったかもしれない。あ、そうそう、『世界名作推理小説大系〈第24〉』に収録されている『Bガール』も読んだ。
なんだ結構読んでいるじゃないか、と思う人もいるかもしれないが、今タイトルを挙げた作品は全部ミステリばかりで、SF長篇はひとつもない。『火星人ゴーホーム』も『発狂した宇宙』も『73光年の妖怪』も未読だ。今回、『天の光はすべて星』を読んだのが、ブラウンのSF長篇初体験だ。
この作品を読むきっかけは、石野休日氏の感想文だ。特に次の箇所。
かつては宇宙飛行士で、今はロケット技術者。すでに老境にさしかかっている。人生に絶望して酒に溺れたことも数知れない。それでも、もう一度宇宙へ、という夢だけは捨てきれない。そこへ降って湧いたのが40年ぶりに立ち上がろうとしている木星探査計画だ。男はそれに参加するために、あわよくば木星へとむかうロケットに搭乗するために、やから同然の方法で木星探査計画を公約とした女性上院議員候補に接触し、やから同然の方法で女性上院議員候補を当選させる。
この中に出てくる「やから」を漢字で書けば「輩」で、「不逞の輩」などという場合の「輩」と同じ語ではあるのだが、大阪では「不逞の」を抜いて「輩」だけで用いられる。そればかりか「やから言う」とか「やかられる」とかさまざまな用法があって、ニュアンスを説明するのは難しい。とりあえず、以下の記事を参照されたい。
これで一挙に興味をそそられて、『天の光はすべて星』を読むことにしたわけだ。
実際に読んでみると、主人公のやからな側面が発揮される場面はさほど多くなく、全体的には宇宙に憧れる純粋な心のほうが前面に出ている。その点ではやや拍子抜けしたが、だからといってこの小説がダメだということになるわけではない。下手をすればベタベタのロマンティシズム全開になって鼻白みかねないところを、要所でやからが引き締めて緊迫感のある物語に仕上がっている。ロケットにも宇宙にもほとんど興味も関心もないが、それでも面白く読めた*4のだから、そっち方面にロマンを感じる人ならより楽しめることだろう。
ところで、作中では2000年から21世紀が始まることになっているのだが、ブラウンともあろう人がなんでこんな事を書いたのだろう? それがちょっと気になった。