世論調査の結果如何にかかわらず

 我が国においては、死刑の定めのある罪を第3回報告で述べた17罪に限定し(別添3参照。但し、刑法改正による条文の記述平易化に伴い、「船車覆没致死罪」は「汽車転覆等致死罪」と、「往来危険による船車覆没致死罪」は「往来危険による汽車転覆等致死罪」と呼ばれるようになったが、構成要件は変更していない。)、うち外患誘致を除く他のすべての罪については死刑以外に無期又は有期の懲役刑又は禁錮刑を選択刑として規定し、重大な犯罪の罪種の中でも特に重大なもの(殺人又は人の生命を害する重大な危険のある故意の行為)についてのみ死刑が適用されるような法制が採られている上、具体的な事件に対する適用においても「犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には死刑の選択も許される」との最高裁第2小法廷判決(1983年7月8日)の趣旨等を踏まえて、死刑の適用は極めて厳格かつ慎重に行われている。現に、1991年から1995年までの5年間に死刑が適用され判決が確定した者は、合計23名であり、いずれも残虐な殺人事件や強盗殺人事件に限られ、人の殺害を伴わない事案はない。また、現状においては、極度に凶悪な犯罪を犯した者に対し、死刑の適用を存置すべきであるとするのが現在の我が国国民の大多数の意見であり、これは、世論調査(最近の調査は1994年9月実施)によって裏付けられている。

委員会は、死刑を科すことのできる犯罪の数が、日本の第3回報告の検討の際に代表団から述べられたように削減されていないことについて厳に懸念を有する。委員会は、規約の文言が死刑の廃止を指向するものであり、死刑を廃止していない締約国は最も重大な犯罪についてのみそれを適用しなければならないということを、再度想起する。委員会は、日本が死刑の廃止に向けた措置を講ずること、及び、それまでの間その刑罰は、規約第6条2に従い、最も重大な犯罪に限定されるべきことを勧告する。

125.死刑の存廃については、基本的には、各国において、当該国の国民感情、犯罪情勢、刑事政策の在り方等を踏まえて慎重に検討し、独自に決定すべきものと考えている。我が国では、死刑の存廃は、我が国の刑事司法制度の根幹にかかわる重要な問題であるから、国民世論に十分配慮しつつ、社会における正義の実現等種々の観点から慎重に検討すべき問題と考えている。我が国として、現時点では、国民世論の多数が極めて悪質、凶悪な犯罪については死刑もやむを得ないと考えていること(最近の世論調査は1999年9月実施)、多数の者に対する殺人、強盗殺人等の凶悪犯罪がいまだ後を絶たない状況等にかんがみれば、その罪責が著しく重大な凶悪犯罪を犯した者に対しては、死刑を科することもやむを得ず、死刑を廃止することは適当でないと考えている。

世論調査の結果如何にかかわらず、締約国は、死刑廃止を前向きに考慮し、公衆に対して、必要があれば、廃止が望ましいことを伝えるべきである。廃止までの間、B規約第6条2に従い、死刑は最も重大な犯罪に厳しく限定されるべきである。締約国は、死刑確定者の処遇並びに高齢者及び精神障害者の執行について、より人道的なアプローチを採ることを検討すべきである。締約国は、死刑執行に備えるための機会の欠如によって引き起こされる精神的苦痛を軽減するという観点から、死刑確定者及びその家族に対して執行予定日時が合理的に事前通知されるよう保証すべきである。恩赦(大赦、特赦)、減刑及び刑の執行免除(reprieve)が実際上も適用可能であるべきである。