統計を読み解く眼を養う良記事
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長野県南部、天竜川の畔に広がる下條村。出生率を向上させたことで全国的に知られる村である。国の合計特殊出生率は1.34。それに対して、下條村の出生率は2003〜06年の平均で2.04人に上る。1993〜97年の平均1.80人から0.24人改善させた。この出生率は長野県下でも随一だ。さらに、村の人口4176人のうち0〜14歳が710人を占める。人口比17%。この数字も県下一という。
なぜ出生率が増えたのか――。多くの視察団はそれを知ろうと、この辺鄙な田舎にやってくる。だが、その理由は驚くほど単純だ。村独自の子育て支援を充実させたこと。この一事に尽きる。
一時、4000人を割り込んだ村の人口も4200人近くまで増加した。若者夫婦が下條村に移住してしまうため、飯田市をはじめ周辺の市町村からはやっかみの声も漏れる。それもこれも、子供を持つ家族が暮らしやすい村作りに取り組んだ成果である。
出生率を上げるには若い夫婦を呼び寄せればいい。そして、彼らが安心して子供を育てられる環境を提供すればいい。下條村が示しているのは簡単な事実だ。ならば、「ほかの自治体も子育て支援を充実させればいいではないか」と誰もが思うだろう。だが、借金にまみれた市町村は独自の政策を打てるほどの財政的な余力がない。やりたくてもやれない――。それが多くの自治体の本音だ。
下條村が賃貸マンションを建てようと考えたのは、既に子供を持つ、もしくは今後、子供をつくる気がある若い夫婦に定住してもらうため。だが、村のコミュニティーを守るため、新住民には消防団や地域の行事に参加してもらわなければならない。つまり、下條村が定住してほしいのは「子供をつくる気があり、コミュニティーに参加する若者」である。だが、国の補助金を使うと、この目的を達成できないことが分かった。
今では入居条件を「子供がいる」か「これから結婚する若者」に限定。消防団への加入や村の行事への参加も条件に加えた。その結果、村が考える「質のいい若者」が入居するようになり、村や地域が活性化し始めた。各地域もマンション建設を歓迎するようになった、という。
国は子育て支援に力を入れている。厚生労働省のホームページを見ても、「地域子育て支援拠点事業」「子育て支援センター事業」「育児支援家庭訪問事業」などいくつものメニューが並んでいる。地域で子育てを進められる施設は必要かもしれない。子育てに悩む母親のところにヘルパーが訪問することも大切なことだろう。だが、これらの政策の結果、出生率が劇的に改善したという話は聞かない。
それに対して、下條村は限られた予算の中、住宅支援補助、医療費補助、保育園整備、図書館建設――という一連のメニューで子供を持つ家庭が暮らしやすい村を作った。その結果として、出生率2.04を実現した。霞が関の政策よりも、人口4000人の村が財布をやりくりして打った政策の方が出生率の向上に寄与している。
ブクマコメントA群*1
ブクマコメントB群*2
- calbeecalbee
- 数少ない若者というパイの奪い合いに勝った、という話で済まずに新しいパイを生み出してるのがすばらしいとおもう
- nanno
- 若い夫婦を流入させた効果に疑問の声があるけど、それはどんな環境でも若い夫婦が生む子供の数は変らないという前提で話してないかい?おそらく周りの地域より多いと思う。
- ta2_1976
- 子供作る夫婦を呼び寄せただけって書いてる人いるけど、この村があるから作る気になった、もしくは二人目を生む気になった、って夫婦は確実に増えてると思うけどなぁ