あなたを犯人です

また人狼BBSの話っぽくなってしまいますが(分からない人はミステリ小説を想像してみてください)、自分も含めた人たちの中に犯人がいることが分かっている前提で犯人を探す状態になった場合、確定していることはたった一つなんですよね。「自分は犯人ではないこと」あるいは「自分が犯人であること」。例えば、あなたは犯人ではないとします。その状態で犯人探しをした場合、案外自分が犯人に疑われてしまうのです。

引用もとの本題とは全然関係ないが、ミステリの古典的名作*1で、一人称の語り手が犯人なのに、犯人自身が「自分が犯人であること」を知らない、という作例があることを思い出した。現代の基準からみればややアンフェアっぽい*2のだけど、その当時はまだヴァン・ダインもロナルド・ノックスも生まれていなかった*3のだから仕方がない。
もう一つ、別の作例*4では、三人称だけど内面描写もされている視点人物が犯人で、やはり犯人自身が「自分が犯人であること」を知らないというのがミソになっていた。これは一種の二重人格ネタ*5で、そのことは序盤で明らかにされているので、フェアプレイの観点からは問題がない。
さらに遡れば、近代ミステリ誕生の遥か以前に、「自分が犯人であること」を知らないまま事件の謎を追う探偵役を演じる人物を扱った物語がある。ミステリではないので、タイトルを書いてしまってもいいのかもしれないが、いちおうぼかしておくことにしよう。その物語では、犯人は二重人格その他の理由で意識せずに殺人を犯したのではなく、全く正常な心理状態のもとで行動しているのだが、にもかかわらずある事情のせいで犯人は自分が追究している事件の犯人が自分自身であることに気づかない、という非常に巧妙なつくりになっている。この作品は後世の多くの物語作家に影響を与えているが、物語の核心にあたるこの仕掛けを現代風にアレンジして使ったミステリをまだ見たことがない。きっと誰かがやっていると思うので、ご存じの方はぜひご教示ください……と書こうと思ったが、これほどぼかしてしまうと何のことを言っているのかわからないから駄目か。

*1:あまりにも古典すぎて読んでいる人があまりいない作品。創元推理文庫から出ています。

*2:ただし、叙述上のアンフェアではなく、別の理由による。

*3:今調べてみると、この二人は同年生まれだった。へー。

*4:こっちはハヤカワ文庫から出ています。今入手できるかどうかは知らないけれど。

*5:ただし、厳密には二重人格とは別の現象。漢字二文字で端的に表すことができるが、それを書いてしまうと特定されてしまうので控えておく。