いや、それ漢字じゃないから、変体仮名だから

にょっ記 (文春文庫)

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7月21日 梅ぼ志

「梅ぼ志」というものをみつける。
こういうの、ときどきある、と思う。
何か、漢字と平仮名が変な風に混ざってるの。
偉いお店の名前などになっていることもある。
たぶん、「うめぼし」のなかに「志」の文字を無理矢理入れているのだが、呪術的な効果があるのだろうか。
「ぼ」はそのままでいいのか。

調べてみると「梅ぼ志飴」というお菓子が見つかった。

初代榮太樓が文久年間に創製した*1のだという。榮太樓という人物が何を考えていたのかはわからないが、少なくとも「うめぼし」のなかに「志」の文字を無理矢理入れたつもりもなければ、呪術的な効果を狙ったわけでもないだろう。単に平仮名の「し」を普通に書いたつもりだったに違いない。
時は流れて、1900年に仮名の字体統一が行われ、いまや変体仮名は書道や看板、商標などで細々と使われるだけになってしまった*2変体仮名のことなど知らなくても日常生活で困ることはないし、知っていたからといって何も偉いわけではない。
でも。
「漢字と平仮名が変な風に混ざってる」ことに違和感を抱く程度には言葉に対する感受性が鋭い人*3には、「もうちょっと先」を求めたくなるものだ。ちょっと残念。

補足

見出しでは「漢字ではない」と書いたが、上のリンク先を見ればわかる通り、「し」の変体仮名ではなく漢字の「志」が用いられている。たぶん、印刷された品書きなどでも漢字が用いられているのだろう。その意味では「漢字と平仮名が変な風に混ざってる」というのは間違いではない。

*1:榮太樓本舗の歴史|榮太樓總本鋪参照。

*2:それ以外の場で使われているのを一度だけ見たことがある。大正生まれの人の名前で「子」に由来する片仮名の「ネ」が使われていたのだ。確か「カネコ」という名前だったと思うが、知らなければ「カココ」と読んでしまうだろうな、と思った。

*3:実は穂村弘の本を読むのはこれが初めてで、しかも『にょっ記』を上の引用箇所まで読んだだけなので、どの程度の言葉の遣い手なのかがわからないためこんな書き方をした。穂村ファンの人には「『程度』とはなんだ。穂村弘を軽く扱うな!」と叱られるかもしれないが、今はこれ以上評価できない。