「現代美術界の桜庭一樹」やなぎみわのゴスな世界
- 作者: 東京都写真美術館
- 出版社/メーカー: 淡交社
- 発売日: 2009/03/01
- メディア: 大型本
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さて、ここから本題。
先週土曜日から国立国際美術館で開催されているやなぎみわ 婆々娘々!*3をみてきた*4。この展覧会は先月10日まで東京都写真美術館で開催されていたやなぎみわ マイ・グランドマザーズの出典作品に、現在開催中のヴェネチア・ビエンナーレ日本館展示「Windswept Women:老少女劇団」の関連作品(?)を加えて構成されたものだ。
やなぎみわという美術家*5を初めて知ったのは、数年前に初期の代表作、エレベーターガールシリーズの数点を、今回と同じ国立国際美術館でみたのがきっかけだった。そのなまなましく無機質なエロティシズムに強く感銘を受けたものの、特に桜庭一樹を連想することはなかった。しかし、その後の作品、特にフェアリーテールなどは、そのまま桜庭一樹の著書の口絵として収録されていてもおかしくない*6ほど親和性が高く、いつしか「現代美術界の桜庭一樹」というフレーズが頭の中で定着していった。
では、このふたりに共通するものは何か? どうも適切な言葉が思い浮かばない。今回の見出しでは「ゴス」という言葉を用いたが、実を言えばゴスとグロの違いすらよく知らないので、果たしてこの言葉が適切なのかどうかはわからない。まあ、実際に触れてみればわかることなので、ろくに知識も教養も持たない人間が駄弁を弄することもないだろう。
で、このたびの展覧会の中心、マイ・グランドマザーズだが、実は展覧会でこのシリーズをみるのがこれが初めてだった。若い女性が老婆に変装した写真などという艶消しにあまり興味が持てなかったからだが、実際にみてみると艶消しどころか非常に鮮烈で衝撃を受けた。
このシリーズには情景を解説する短文がついているのだが、それがまた面白い。たとえばこれとかこれとか。また、これなんかは異質なものの組み合わせの妙が冴える逸品だし、これは二重の変装という点で『SH@PPLE(6) 』を想起させられる*7。そして、これとこれは、まさしく絶品としか言いようがない。人によって感じ方や好みの作品は違うだろうから、今紹介したもの以外もぜひ一度みてほしいものだ。
あ、あれ? 本の紹介は……?
ええと、いちおう『やなぎみわ ? マイ・グランドマザーズ』にも触れておこう。
この本は国立国際美術館の売店で買ったもので、オビに「やなぎみわ 婆々娘々!展公式カタログ」と書かれていた*8が、ISBNコードがついているし、はまぞうにも登録されていたので、たぶん一般の書店でも買えるだろう。内容はやなぎみわの写真が中心だが、それ以外に論文*9が3篇収録されている。それらの執筆者とタイトルは下記のとおり。
巻末の執筆者紹介によれば、丹羽氏は東京都写真美術館学芸員、エリオット氏は森美術館初代館長、植松氏は国立国際美術館主任研究員だそうだ。どうでもいいが植松氏の職名が「主任学芸員」ではないのは、国立国際美術館が博物館法上の「博物館」ではない*10から*11だろうか……などと、どうでもいいことを考えた。
いちおう各論文をざっと読んでみたが、特にコメントはない。
*1:たとえば、「奇術界の江戸川乱歩賞」とは言っても、「推理小説界の石田天海賞」とはふつう言わない。
*2:もちろん、このふたりを「似た傾向の作家」とみなすこと自体を不当だと感じる人もいるだろうが、それは対称性の問題とはまた別の話。
*3:リンク先の内容は展覧会が終わったら差し替わってしまいそうな感じがする。
*4:金曜日は午後7時まで開館しているので、仕事帰りでも訪れることができる。
*5:写真作品が多いが、「写真家」と言ってしまうとなんかちょっとイメージが違う。ここでは、あまり深く考えずに「美術家」ないし「作家」と書いておく。
*6:でも、これがカバーだったら正直ひくだろう、とも思う。
*8:東京都写真美術館では「やなぎみわ マイ・グランドマザーズ展公式カタログ」というオビがついていたのではないかと想像している。
*9:目次では「Essay」と書かれている。
*10:国立国際美術館は独立行政法人国立美術館法に基づき独立行政法人国立美術館が設置する美術館であり、博物館法第2条の「博物館」の定義に合致しない。
*11:博物館法には学芸員の名称独占規定がないので、別に博物館法上「博物館」以外の施設の職員が「学芸員」を名乗ってもいいように思うのだが、そこのところはどうなっているのだろうか? このあたりを読むと、「本当は駄目だが黙認している」というふうにも読める。