兵庫県都市政策課は電車と気動車の区別がついていないのか?

神戸電鉄(神戸市)が7年に渡って、兵庫県の屋外広告物条例に反し、三田、三木、小野市内で自社関連以外の車体広告を掲示した電車を運行していたことが分かり、県は25日、広告車両の運行や広告募集をやめるよう指導した。県は近畿の府県で唯一電車の車体広告を認めていないが、県内でも神戸、西宮などの政令中核市は既に解禁するなど自治体間の足並みの乱れや、規制の対象があいまいなことも背景にあるとみられる。

【略】

県は車体広告を解禁するため、条例改正に乗り出し、7月13日まで、県民の意見や提案を募集している。

恥ずかしながら、電車の車体広告が屋外広告物条例の規制対象にあたるということをこの記事を読むまで知らなかった。
調べてみると、屋外広告物法*1における「屋外広告物」の定義は、車体広告を含むものと読むことができる。

(定義)

第二条  この法律において「屋外広告物」とは、常時又は一定の期間継続して屋外で公衆に表示されるものであつて、看板、立看板、はり紙及びはり札並びに広告塔、広告板、建物その他の工作物等に掲出され、又は表示されたもの並びにこれらに類するものをいう。

2  この法律において「屋外広告業」とは、屋外広告物(以下「広告物」という。)の表示又は広告物を掲出する物件(以下「掲出物件」という。)の設置を行う営業をいう。

第1項で「屋外広告物」を定義しておきながら第2項で「広告物」と省略するのは変な気もするが、この法律の名称が「屋外広告物法」なのだから仕方がなかったのだろう。あまり深く考えるのはやめておこう。
さて、兵庫県屋外広告物条例をみると、次のような規定がある。

(禁止地域等)

第4条 次に掲げる地域及び場所(以下「禁止地域等」という。)においては、広告物等を表示し、又は設置してはならない。

【略】

(12) 道路、鉄道、軌道及び索道の区間並びにこれらから展望できる地域で、知事が指定する区域

【略】

(許可地域等)

第6条 次に掲げる地域及び場所(禁止地域等を除く。以下「許可地域等」という。)において、広告物等を表示し、又は設置しようとする者は、知事に申請して、その許可を受けなければならない。

【略】

(2) 道路、鉄道、軌道及び索道の区間並びにこれらから展望できる地域で、知事が指定する区域

さあ、ややこしくなってきた。「禁止地域等」と「許可地域等」の両方に「知事が指定する区域」がある。
次に屋外広告物条例及び屋外広告物条例施行規則に基づく知事が指定する区域等をみると、第1項第4号の表*2神戸電鉄粟生線三田線が掲載されているが、どちらの路線も「許可地域等」だけで「禁止地域等」はない。また、有馬線公園都市線は表に掲載されていない*3。なんか上の記事に書いていることと違っているような??? 車体広告が禁止されているのではなくて、無許可で走らせたことが条例違反ということなのかもしれない。
いや待て、車体広告は「禁止地域等」にではなく「禁止物件」に引っかかるのか?

(禁止物件)

第5条 次に掲げる物件には、広告物等を表示し、又は設置してはならない。

(1) 橋、トンネル、高架構造物及び分離帯

電車が橋やトンネルを通るたびに条例違反になるということか? いや、橋に広告を表示するのと、橋の上を広告を表示した車輌が通るのとは別物だろう。
と、そんなことを考えながら、兵庫県/屋外広告物に係る規制の見直しに関する県民意見提出手続きについてをみると、屋外広告物に係る規制の見直しについて(本文) ( PDFファイル / 177KB )という文書が掲載されていた。

本県では、従来、電車(※)の車体に商業広告を載せることが想定されにくかったことから、これを屋外広告物条例上の禁止対象として取り扱っています。このため、全ての鉄道路線が禁止地域等(※)を通過する本県においては、電車の車体に自社用以外の広告物(※)を表示することは、実態として不可能となっています。

あれ? 「全ての鉄道路線が禁止地域等を通過する」? 変だな。屋外広告物条例及び屋外広告物条例施行規則に基づく知事が指定する区域等の表をみると、

これらの路線は「禁止地域等」を通過するが、

これらの路線は「許可地域等」を通過するが「禁止地域等」は通過しない。
また、

これらの路線は兵庫県内を通過する*4が、「許可地域等」も「禁止地域等」も通過しない。
もっとも、現在ウェブ上で閲覧可能な屋外広告物条例及び屋外広告物条例施行規則に基づく知事が指定する区域等は昨年3月のものなので、その後「禁止地域等」が変更されているのかもしれないが。
さて、ここまで前置き、ここから見出しに掲げた話題に移る。
兵庫県/屋外広告物に係る規制の見直しに関する県民意見提出手続きについてには屋外広告物に係る規制の見直しについて(参考資料) ( PDFファイル / 52.1KB )という文書も掲載されていて、本文で※を付した用語が解説されているのだが……

【電車】
鉄道事業法第2 条第1 項に規定する鉄道事業の用に供する車両又は軌道法の規定に基づく軌道事業の用に供する車両をいう。

と書かれている。
えー、そりゃないよー。気動車*5も客車列車*6も一緒くたにして「電車」なんて! あ、兵庫県内を通過する定期客車列車は今年の春のダイヤ改正で全廃されたのだったっけ。でも、貨物列車*7は今でも走っている。そして、言うまでもないことだが、気動車も貨物列車も電車ではない
まあ、「ここでは『電車』という言葉をこう使うのだっ!」と開き直られたなら仕方のないことではあるのだが、同じ「電車」という用語が条例の本文でも用いられているのは困ったものだ。

(適用除外等)

第7条 次に掲げる広告物等(第2号に掲げる広告物等にあっては、規則で定めるところにより知事に届け出たものに限る。)については、第4条第1項、第5条第1項から第3項まで及び前条の規定は、適用しない。

【略】

(5) 電車又は自動車に表示する広告物で規則で定めるもの

【略】

(7) 人、動物、車両(電車及び自動車を除く。)、船舶又は航空機に表示する広告物

条例には「電車」の定義はないから、素直に読めば、気動車や貨物列車には「禁止地域等」「許可地域等」の規定は適用されないということになる。そうすると、全線非電化の姫新線智頭急行線なんかはどうなってしまうのか? 鉄道車輌一般を「電車」で代表させるのは法規文の書き方としてはまずいのではないだろうか。
そこで、法律ではどうなっているのか調べてみた。法令データ提供システムで「電車」を含む法律を検索すると13件ヒットした。

該当法令名 該当法令番号
公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律 (平成十四年六月十二日法律第六十七号)
鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律 (平成十四年七月十二日法律第八十八号)
酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律 (昭和三十六年六月一日法律第百三号)
道路交通法 (昭和三十五年六月二十五日法律第百五号)
銃砲刀剣類所持等取締法 (昭和三十三年三月十日法律第六号)
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律 (昭和三十二年六月十日法律第百六十六号)
放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律 (昭和三十二年六月十日法律第百六十七号)
有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律 (昭和二十六年四月五日法律第百三十五号)
土地収用法 (昭和二十六年六月九日法律第二百十九号)
公職選挙法 (昭和二十五年四月十五日法律第百号)
火薬類取締法 (昭和二十五年五月四日法律第百四十九号)
軽犯罪法 (昭和二十三年五月一日法律第三十九号)
刑法 (明治四十年四月二十四日法律第四十五号)

以下、各法律から「電車」が用いられている箇所を抜粋して掲げる。

イ 電車、自動車その他の人若しくは物の運送に用いる車両であって、公用若しくは公衆の利用に供するもの又はその運行の用に供する施設(ロに該当するものを除く。)

2  住居が集合している地域若しくは広場、駅その他の多数の者の集合する場所において、又は弾丸の到達するおそれのある人、飼養若しくは保管されている動物、建物若しくは電車、自動車、船舶その他の乗物に向かって、銃猟をしてはならない。

第三条  警察官は、酩酊者が、道路、公園、駅、興行場、飲食店その他の公共の場所又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物(以下「公共の場所又は乗物」という。)において、粗野又は乱暴な言動をしている場合において、当該酩酊者の言動、その酔いの程度及び周囲の状況等に照らして、本人のため、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当の理由があると認められるときは、とりあえず救護施設、警察署等の保護するのに適当な場所に、これを保護しなければならない。

十三  路面電車 レールにより運転する車をいう。*8

第三条の十三  何人も、道路、公園、駅、劇場、百貨店その他の不特定若しくは多数の者の用に供される場所若しくは電車、乗合自動車その他の不特定若しくは多数の者の用に供される乗物に向かつて、又はこれらの場所(銃砲で射撃を行う施設(以下「射撃場」という。)であつて内閣府令で定めるものを除く。)若しくはこれらの乗物においてけん銃等を発射してはならない。ただし、法令に基づき職務のためけん銃等を所持する者がその職務を遂行するに当たつて当該けん銃等を発射する場合は、この限りでない。

第五十九条  原子力事業者等(原子力事業者等から運搬を委託された者を含む。以下この条において同じ。)は、核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物を工場等の外において運搬する場合(船舶又は航空機により運搬する場合を除く。)においては、運搬する物に関しては主務省令(次の各号に掲げる原子力事業者等の区分に応じ、当該各号に定める大臣の発する命令をいう。以下この条において同じ。)、その他の事項に関しては主務省令(鉄道、軌道、索道、無軌条電車、自動車及び軽車両による運搬については、国土交通省令)で定める技術上の基準に従つて保安のために必要な措置(当該核燃料物質に政令で定める特定核燃料物質を含むときは、保安及び特定核燃料物質の防護のために必要な措置)を講じなければならない。*9

第十八条  許可届出使用者、届出販売業者、届出賃貸業者及び許可廃棄業者並びにこれらの者から運搬を委託された者(以下「許可届出使用者等」という。)は、放射性同位元素又は放射性同位元素によつて汚染された物を工場又は事業所の外において運搬する場合(船舶又は航空機により運搬する場合を除く。)においては、文部科学省令(鉄道、軌道、索道、無軌条電車、自動車及び軽車両による運搬については、運搬する物についての措置を除き、国土交通省令)で定める技術上の基準に従つて放射線障害の防止のために必要な措置を講じなければならない。*10

三  汽車、電車、自動車、船舶又は航空機内において行われる有線ラジオ放送の業務

八  軌道法 (大正十年法律第七十六号)による軌道又は同法 が準用される無軌条電車の用に供する施設

二  汽車、電車、乗合自動車、船舶(第百四十一条第一項から第三項までの船舶を除く。)及び停車場その他鉄道地内

2  火薬類を運搬する場合(船舶又は航空機により運搬する場合を除く。)は、通路、積載方法及び運搬方法について内閣府令(鉄道、軌道、索道及び無軌条電車については、国土交通省令)で定める技術上の基準及び前条第一項の規定により運搬証明書の交付を受けることを要する場合にはその運搬証明書に記載された内容に従つてしなければならない。*11

五  公共の会堂、劇場、飲食店、ダンスホールその他公共の娯楽場において、入場者に対して、又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、飛行機その他公共の乗物の中で乗客に対して著しく粗野又は乱暴な言動で迷惑をかけた者

第百八条  放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。*12

以上、鉄道車輌一般を単に「電車」で代表させている例はひとつもなく、「汽車」と並べたり「その他の乗り物」などを付け加えたりしている。さすが内閣法制局が審査しているだけのことはある。
兵庫県の意見募集は今ちょうど実施中なので、「電車」という用語の使い方の不適切さを指摘しようかと一瞬思ったのだが、ここで思う存分書いたらすっきりしたので、「別にもうどうでもいいや」という気分になった。というわけで、この件はおしまい。後は野となれ山となれ。

*1:都道府県の屋外広告物条例は屋外広告物法第2条の規定に基づき制定されたものなので、特に定義規定を設けない限り屋外広告物法の定義がそのまま継承される。ちなみに政令指定都市地方自治法第252条の19第1項第15号及び地方自治法施行令第174条の40の規定により、中核市地方自治法第252条の22第1項及び地方自治法施行令第174条の49の19の規定により、それぞれ屋外広告物法に基づき都道府県が処理することとされている事務を処理することができる。

*2:表を引用するのは面倒なので省略。

*3:有馬線は全線神戸市内なので兵庫県は規制できないが、公園都市線は一部を除き三田市内にあるので兵庫県屋外広告物条例が適用される。

*4:このほかにも政令指定都市中核市を通過する路線がいくつかあるが、もともと兵庫県屋外広告物条例が適用されないので省略。

*5:ディーゼルカーのこと。

*6:機関車に牽引されて走る旅客用の列車のこと。客車を牽引するのが電気機関車であっても電車とは区別される。

*7:広義には貨物電車も貨物列車に含まれるが、ここでは客車列車と同じく機関車に牽引されて走る列車のみを指すものとする。

*8:ほか数箇所、すべて「路面電車」。

*9:ほか数箇所、すべて「無軌条電車」。要するにトロリーバス

*10:同上。

*11:同上。

*12:ほか数箇所、「汽車」と「電車」を併記。