武雄市図書館は市長所管ではない

高木浩光@自宅の日記 - 武雄市長、会見で怒り露に「なんでこれが個人情報なんだ!」と吐き捨て経由で知ったことだが、武雄市は図書館と歴史資料館の運営についてTSUTAYA運営会社と提携することになったそうだ。

進展する高齢社会の中で、豊かな生活を実現するための中核的施設として、武雄市図書館・歴史資料館をより市民価値の高い施設として運営するにあたり、CCCが運営する「代官山 蔦屋書店」のコンセプト及びノウハウを導入し、企画すること、及びそのための重要な手段として付属事業を展開することについて、武雄市とCCCが提携することについて合意する

図書館にTポイントカードを導入するという方針のようで、はてなブックマーク - 高木浩光@自宅の日記:武雄市長、会見で怒り露に「なんでこれが個人情報なんだ!」と吐き捨てでは複数の人が図書館の自由に関する宣言を引き合いに出している。それは実にもっともなことだと思うのだが、ここでは別の指摘をしておこう。
それは、武雄市図書館・歴史資料館武雄市長が所管する施設ではないので、その管理運営の方針について本来の管理者を差し置いた記者会見を行い構想を発表するのは越権行為の疑いがある*1、ということだ。
武雄市図書館・歴史資料館設置条例をみると、市長の権限とされているのは入場料の徴収〔第5条第2項〕、入場料等の減免〔第10条〕、入場料等の還付〔第11条ただし書き〕だけだ。要するに料金関係だけが市長の権限に属することで、図書館カードをTポイントカードにするかどうかなどという料金と直接関係ない事柄について市長があれこれ口出しするのは、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第23条〔教育委員会の職務権限〕及び第24条〔長の職務権限〕により明確に規定された権限の範囲を逸脱しているのではないかと考えられる。
ちなみに地方教育行政の組織及び運営に関する法律第24条の2では、文化に関することは文化財の保護に関することを除き、条例により教育委員会から首長に権限移譲することができるという規定がある。図書館の管理は明らかに文化に関することだと思われるので、きちんと市議会を通して条例を制定すれば市長所管の施設にできるのだが、武雄市例規集にはそのような条例は掲載されていないし、今年1月1日以降に制定または改正があった形跡もない*2

追記

本文の註で、

自らの権限に属さない事柄について記者会見を開くこと自体は違法ではないが、もしTSUTAYA運営会社との提携基本合意を市長名で締結しているのなら、当然無効だろう。このあたりの詳細が気になるところだ。

と書いたが、その後、Ustream.tv: ユーザー TakeoLibrary: 武雄新図書館構想発表記者会見, Recorded on 12/05/04. 生活をみると、市長が基本合意書にサインする場面があった。当然、自分の名前を書いたのだろう。
ところで、はてなブックマーク - 武雄市図書館は市長所管ではない〔2012-05-05〕 - 一本足の蛸に次のようなコメントが寄せられていたので、参考のため紹介する。

Assume 図書館, お前は何を言っている
無効とか仰るが、首長の会見なんて施政方針でしかない。現に執行してないものに無効もクソもないんだが、法的にまだ効力を発していないというだけの事になに噛みついてるんだい? 2012/05/05

首長の会見に「無効もクソもない」のは当たり前だ。「無効」と評しているのは基本合意書についてなのだが……。先の註で「自らの権限に属さない事柄について記者会見を開くこと自体は違法ではない」とはっきり書いているのを読み落としたのだろうか?
基本合意書についても「現に執行してないものに無効もクソもない」という主張ができるかもしれない*3が、それに加えて、図書館の運営という事柄については武雄市長は法人としての武雄市を代表しないので当然無効だということを確認しておくことに全く意味がないとは思わないのだが如何?

おまけ

社会教育調査:文部科学省によれば、平成20年10月1日現在の公立図書館数は3140館で、そのうち首長が設置者である館は6館となっている。また、3140館のうち指定管理者が管理しているのは203館で、その内訳は「民法34条の法人」*4が51館、会社が107館、NPO法人が29館、その他が16館という構成だ。4年前の調査なので、今では状況がかなり変わっているのではないかと思われるが、いちおう参考のため。より詳しく知りたい人は、政府統計の総合窓口 GL08020103の表番号62「設置者別指定管理者別図書館数」及び表番号63「設置者別所管別図書館数(公立のみ)」を参照されたい。
ちなみに、日本で最初の民間指定管理者による公立図書館は山中湖情報創造館だそうだ。

*1:自らの権限に属さない事柄について記者会見を開くこと自体は違法ではないが、もしTSUTAYA運営会社との提携基本合意を市長名で締結しているのなら、当然無効だろう。このあたりの詳細が気になるところだ。

*2:平成24年3月議会提案議題概要【PDF】には武雄市図書館・歴史資料館設置条例の一部改正が含まれているが、図書館法第16条の改正に伴い、図書館協議会委員の任命の基準について条例で制定することになったからで、今回の件とは関係ない。

*3:契約書締結以前に交わされる協定書や覚書の類に法的効力があるのかどうかという点はよく知らないので深入りしないことにする。

*4:当時の民法第34条は「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益に関する社団又は財団であって、営利を目的としないものは、主務官庁の許可を得て、法人とすることができる。」という内容だった。