武雄市職員が基幹統計で不正な事務処理を行ったとされる件について

今日、総務省がこんな発表をしている。

平成25年住宅・土地統計調査は、国から都道府県、市町村への法定受託事務として実施し、都道府県知事が任命した調査員が、市町村の指導の下に住戸を訪問し、調査票の配布・回収を行いました。

今般、佐賀県武雄市が本調査に係る事務処理の再確認を行ったところ、武雄市の職員が、市内の調査対象住戸約1,700住戸のうち、51住戸の調査を実施せず、自ら架空の調査票を作成し、提出していたことが判明しました。

何かと最近話題になることが多い武雄市だが、こういう話題が出てくるとはちょっと意外だった。
で、Twitterで次のように呟いた。

「なんとも象徴的な事件」と書いたが、後で考え直してみると何も象徴していないかもしれない。
まあそれはともかく。
武雄市の空き家条例というのは、武雄市空き家等の適正管理に関する条例のこと。この条例については、伊万里市と共通の空家対策条例案を出します。 : 武雄市長物語空家対策条例案の議論スタート : 武雄市長物語を読んでいたので注目していた。
その武雄市長物語で今回の事件についてどう言及しているのだろうかと思って見に行ってみると統計調査に係る不正な事務処理の発生について(お詫び) : 武雄市長物語という記事はあるのだが、武雄市Facebookページの謝罪文とほとんど同じ内容だ……と思ったが、よく見ると最後に

なお、当該職員は、2月28日付けで辞職しております。

と書いてあったのでびっくりした。
えっ、「不正な事務処理」って統計法違反でしょ? 辞職を認めていいの?
統計法は字面だけ見るとなかなか厳しい法律で、たとえば全国民が対象となっている国勢調査の申告を拒否しただけで罪に問うことができるようになっているのだが、実際にそんなことをしていたら何百万人もの人が処罰されることになってしまうのでできない。統計法の罰則規定はほとんど「抜けない宝刀」になっている。
では、これまで統計法違反で処罰された事例が全くないかといえば、そういうわけではない。統計法違反で懲役刑が適用された過去の事例について調べたい。 | レファレンス協同データベースによれば、少なくとも過去に3例があることがわかる。もっとも最近の事例は愛知県東陽町の2010年国勢調査人口水増し事件だ。この事件についてはこの日記でも言及したことがある。

今回の武雄市の事件は今後どうなるのだろうか? 総務省の発表資料では

関係職員に対しては、関係法令の規定を踏まえ、厳正に対処するよう県及び市と協議してまいります。

と、刑事告発するかどうか含みを持たせた書き方になっている。
このような場合、仮に本人から辞職の申し出があったとしても、すぐに認めずに保留にして、場合によっては免職処分を行うことのほうが自然な流れだと思う*1のだが、どうなのだろう?
ただ、今回の事例はちょっとややこしい。冒頭で引用した文章を、一部強調のうえ再掲する。

平成25年住宅・土地統計調査は、国から都道府県、市町村への法定受託事務として実施し、都道府県知事が任命した調査員が、市町村の指導の下に住戸を訪問し、調査票の配布・回収を行いました。

今般、佐賀県武雄市が本調査に係る事務処理の再確認を行ったところ、武雄市の職員が、市内の調査対象住戸約1,700住戸のうち、51住戸の調査を実施せず、自ら架空の調査票を作成し、提出していたことが判明しました。

微妙な言い回しでよくわからないのだが、この職員は武雄市の職員としてではなく、都道府県知事が任命した調査員として架空の調査票を作成したのだとも読める。なんだかおかしな話だが、少なくとも住宅・土地統計調査規則第8条では、市町村職員が統計調査員になってはいけないとは書かれていない*2。さて、実際はどうだったのだろう? 続報を待ちたい。
それはともかく、この住宅・土地統計調査、日経BPタイアップ|統計局ホームページ/平成25年住宅・土地統計調査というページもあってなかなか興味深い。個人的には2013年調査で5年前に比べて空き家率がどれくらい増えているかということしか関心がなかったのだが、調査結果が公表されたら他の事項についても目を通しておこう。

追記

NHKのニュースで少し詳しく出ているのを見つけた。

この調査は、市町村が、それぞれの世帯に訪問する調査員を募って行われましたが、武雄市の調べに対し、この職員は、「調査には45人の調査員が必要だったが2人足りなかったため、その2人が担当する予定だった51戸分の調査票を自分で記入した」と話しているということです。

この職員は、すでに先月、「自己都合」を理由に退職しているということです。

なんだか切なくなってきた……。

*1:とはいえ、地方公務員の人事管理についてあまりよく知っているわけではないので、「いや、さっさと辞職してもらうほうが自然だ」と言われたら「ああ、そうですか」と言うしかない。なお、法務相談事例集-退職届の取扱いについてを参照のこと。

*2:なんとなく地方公務員法第35条か第38条あたりにひっかりそうな気もするのだが……。