がばい図書館法解釈

佐賀県武雄市・樋渡啓祐市長生インタビュー 〜がばい市長大いに吼える!〜:放送と通信の地殻変動 - CNET Japanを読んだ。「がばい」は副詞であり直接名詞には係らない、というような細かい話はさておき、気になる点がいくつかあった。「ホッテントット」云々は既にはてなブックマーク - 佐賀県武雄市・樋渡啓祐市長生インタビュー 〜がばい市長大いに吼える!〜:放送と通信の地殻変動 - CNET Japanで指摘されているので、それ以外で。

図書館法で各自治体に1つ以上、運営主体は自治体でなければならないと決まっています。なので病院のように民間移譲はそもそもできなかった。しかし、平成15年に制定された「指定管理者制度」で、運営を民間に委託することはできるようになったので、CCCに運営委託をすることに決めたわけです。

図書館法に書かれていないことを言っている。
第一に、図書館法には各自治体に1つ以上の図書館を設置することを義務づける規定はない。実際、全国には図書館が1つもない自治体は多数存在する。興味のある方は統計局ホームページ/統計でみる市区町村のすがた2012の「G 文化・スポーツ」の項を参照されたい*1
第二に、図書館法には図書館の運営主体は自治体でなければならないという規定もない。図書館法第2条で地方公共団体のほか日本赤十字社一般財団法人と一般社団法人が設置主体として挙げられているし、そもそもこれは単に図書館法でいう「図書館」の定義を述べただけなので、同法第29条の規定により「図書館と同種の施設は、何人もこれを設置することができる」*2ことになっている。もちろん、公立図書館を民間移譲してしまえばもはやそれは公立図書館ではないし、図書館法上の「図書館」でもなくなるが、それは言葉の上の事柄に過ぎない*3
図書館を民間移譲できないのは採算性の問題が大きいと思われる。民営であれば入館料や貸出料などを徴収する有料図書館も可能だ*4が、もともと無料だった市立図書館を有料化しても採算がとれるほどの来客は見込めないだろう。公営でも民営でも原則として有料となっている病院とは訳が違う。ともあれ、図書館法には公立図書館を民営化することを規制する規定はない。
このインタビュー記事は、樋渡市長の発言を逐語的に書き起こしたものではなくて、インタビュアーが「意図を汲んで文章化している」もので、いくら「樋渡市長の真意は正しく伝わっていると確信している」と言っても、それはインタビュアーが理解した限りでの「真意」でしかない。従って、ここで指摘したような図書館法にかかる誤りが話し手と聞き手のどちらに由来するのかは定かではない、と一応は言っておかなければならないだろう。
本題はここまで。あとは余談。
この記事にはもう一つ見過ごすことのできない箇所がある。

元々温泉は目的ではなくて手段であるべきだと思っています。ただ単に温泉に行くのではなくて、温泉に行って何をするのかを作らなければならない。全国の名湯100の中からオンリーワンとして武雄温泉を選んでもらうのはなかなか難しい。でも別のオンリーワンで武雄に来てみたら、温泉もあったとなったときこそ、温泉がプラスアルファとしてさらなる効果を発揮できるわけです。

この短い一節の中で、前半では手段と目的の関係について述べ、後半ではメインとサブの関係について述べているため、かなり錯綜していてやや解釈に苦しむのだが、いずれにせよ温泉を軽くみているのは明らかだと思う。温泉ファンの一人として、有名温泉地を抱える市の首長がこのような発言をすることが非常に悲しい。武雄温泉を日本百名湯のひとつに選んだ温泉教授がこれを読んだらどう思うだろう?
……と言いつつ、やっぱり佐賀県の名湯と言えば嬉野温泉だよね、とも思ってしまうのがますます悲しい。数年前に佐賀県を訪れた際にも、武雄温泉はスルーして嬉野武雄観光秘宝館を訪れてから嬉野温泉にだけ浸かって帰ってきたのだから、あまり偉そうなことは言えない。今度、図書館が新しくなったら見物がてら武雄温泉にも入ってみようかと考え中。

*1:なお、「利用者のために」を見ると、ここでいう「図書館」とは図書館法の規定に基づいて設置されたものであることと、「公共図書館」を対象としていることが説明されているが、図書館法には「公共図書館」という括りはないのでかえってややこしくなっているように思う。

*2:「何人」は「なんにん」でも「なにじん」でもなく「なんびと」と読んでください。

*3:ただし、武雄市立図書館の指定管理者にツタヤ(CCC)が指定されることと個人情報保護条例 - ☈法令データ検索日誌で示されている「行政の人間」観をこの話題に当てはめるなら、単なる言葉の上の問題ではすまないという可能性もあるかもしれない。とはいえ、「個人情報」と「図書館」とでは、どちらも法令で定義されているという共通点はあるものの、事情はかなり異なることと思われる。

*4:六本木ライブラリーなどの例がある。