讀賣新聞には教育委員と教育長と教育長職務代行者の区別がついていないらしい

最近どたばたしていたのですっかり見逃していたのだが、先月11日にこういう記事が出ていたことを今日知った。

阿久根市議会は10日、空席となっている教育長に、市教委教育総務課長、長深田悟氏(57)を任命する人事議案を反対多数で不同意にした。市議会が長深田氏を不同意にするのは昨年11月、同12月に続いて3度目。提案した竹原信一市長は議会終了後、「教育行政に対する議会の対応は疑問。議員に入れ替わってもらうしかない」と述べ、一部住民が準備している議員解職請求(リコール)に期待を示した。

【略】

長深田氏を任命する議案は、市議会が昨年11月と同12月に不同意にしたが、竹原市長は、任用規則などに基づき、採用試験を経ずに長深田氏を教育総務課長に採用し、教育長を兼務させた。この措置に市議会は反発を強め、今年2月に竹原市長の不信任案を可決する一因となった。教育長ポストは昨年10月から空席が続いているが、長深田氏は今後も同課長と教育長を兼務する。

これは酷い記事だ。一方で教育長ポストが空席だと書きながら、他方で課長が教育長を兼務していると書いているのだから、特に地方教育行政制度に通じていない人でもよく読めば記事のおかしさに気づくことだろう。
いちおう念のためにこの記事の間違いを指摘しておく。

  1. 教育長は教育委員会が任命するものであり市長に教育長任命権はない。これは地方教育行政の組織及び運営に関する法律第16条第2項に規定されている。また教育長任命に議会に同意を得る必要はない。記事で言及されているのは、同法第4条第1項に基づき市長が議会の同意を得て任命する教育委員の人事案だ。この場合はいわゆる「教育長含み」の人事案なので「教育長任命案」と書いてしまったのだろうが、このような省略は事実に反するのでやってはいけない。
  2. 教育総務課長が教育長を兼務することはできない。これも地方教育行政の組織及び運営に関する法律の規定*1による。教育総務課長は教育長の代わりにその職務を行っているだけで、ふたつのポストを兼ねているわけではない。なお、この点についてはここここで疑義を呈しておいた。

ちなみに、同じ話題を扱った別の新聞記事を紹介しておこう。

鹿児島県阿久根市議会は10日、竹原信一市長が提案した長深田悟教育総務課長(57)を教育委員に任命する人事案を賛成5、反対10で不同意とした。この人事案の不同意は3回目。出直し市長選後も続く市長と議会の根深い対決構図が浮き彫りになった。

阿久根市議会は10日開いた本会議で、竹原信一市長がこれまで2度提案し、いずれも不同意としていた同市教育委員会教育総務課長の長深田悟氏(57)を、教育長候補としてあらためて教育委員に任命するための人事案を、賛成少数で不同意とした。竹原市長は反発を強めており、今後、市長と議会の一部との対立が再び激化することも予想される。

毎日新聞では「教育委員に任命する人事案」、南日本新聞では「教育長候補としてあらためて教育委員に任命するための人事案」と書かれている。新聞がいつもでたらめな記事を書いているわけではないというのは、ごく当たり前の事実だが、こうやって記事を比較対照してみるとよくわかる。

*1:第6条と第16条第2項の規定をあわせて読むと、教育委員たる教育長は市の常勤職員である教育総務課長と兼職できないことがわかる。なお、「第六条の規定にかかわらず」というのは、教育委員が教育長を兼ねるためのもので、教育長がさらに他の職を兼ねることを認める文言ではない。