神託のごとく

これはごく普通のポルノ小説なのだが、絶妙なシーンがあったので今年最後の締めの1冊*1として紹介しておこう。

「こういう向かい合わせの座席のことを、なんと言うのか、知っているかい?」
駅から走りだした列車の中で、柳沢喜四郎がいかにもなにげない世間話というふうに、対面した座席に座る二人の美女に質問した。
理紗と泉美は硬い顔を見合せ、そろって同じ答えを返す。
「知らないわ」
「し、知りません」
喜四郎はにこやかな笑みとともに、神託のごとく正解を告げる。
クロスシートと言うんだ」
理紗と泉美は、また顔を見合せた。上機嫌な男に対して、どう反応すればよいのかわからない。

こういうのを読むと頭を抱えて転げ回りたくなる。ああ、過去の記憶が走馬燈のように脳裏を駆けめぐってゆく……。

*1:実際には、これより後に『天来の美酒/消えちゃった』を読んでいる。その感想文はこちら