「Wildlife Management」と「野生動物保護管理」

今日は特にまとまりのない雑談を。
「野生動物保護管理」という言葉は、自然環境保全に関心のある人のあいだでは比較的浸透しているが、一般にはまだあまり流布していないように思われる。
行政用語だという話もある*1が、現在の日本の法令に「野生動物保護管理」という言葉が使われている例はない。ただし、似たような言葉に「鳥獣保護管理」というのがあって、これは鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律などで用いられているし、環境省野生鳥獣の保護管理 〜人と野生鳥獣の適切な関係の構築に向けて〜というサイトを開設している。
「鳥獣」というのは鳥類と哺乳類のことで、「野生鳥獣」なら、野生の鳥類と野生の哺乳類のことだから、野生動物の一部に過ぎない。したがって行政用語の「(野性)鳥獣保護管理」は「野生動物保護管理」に比べると対象範囲が狭いことになる。しかし、保護管理の主要な対象は哺乳類と鳥類なので、実際には「野生動物保護管理」も「(野性)鳥獣保護管理」もほぼ同義語として取り扱われているようだ。
野生動物(鳥獣)を保護管理するという考え方は日本古来のものではなくて輸入品だ。英語では「Wildlife Management」という。「Wildlife」を直訳するなら「野生生物」だから、動物に限定されてはいないことになる。ここに英語とずれがある。
英語との対比でもうひとつ。「Management」という単語を「保護管理」という四字熟語に訳しているのは少しぎこちない感じがする。単に「管理」ではいけなかったのか?
「保護管理」という字面をみると、「保護+管理」と分解してみたくなる。野生動物を助けるのが「保護」だとすれば、「管理」は逆に捕殺することだ、と考えてしまいたくなるのだ。実際、特定鳥獣保護管理計画などを読むとき、「生息数管理」などというのは捕殺の婉曲表現だと思って読むと理解しやすい。
行政用語の「管理」は規制のことだ、という話を聞いたことがある。特に警察でそういう言葉遣いをするそうで、たとえば「交通管理」は「交通規制」とほぼ同じ意味となる。しかし、野生動物の保護管理の場合は話が逆で、捕獲規制は「管理」ではなく「保護」のほうだ。お役所言葉は難しい。
ところで、「野性動物(鳥獣)保護管理」という訳語はいつ頃できたものか。野生動物保護管理事務所が創業したのは1983年だから、当時すでに「野生動物保護管理」という言葉があったことになる。意外と古い。まだ「生物多様性」という言葉が陰も形もなかった*2頃だ。その後、1999年には今の鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の前身にあたる鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律に特定鳥獣保護管理計画制度が取り入れられている。このあたりで日本語に定着したということだろう。
野生動物保護管理の考え方は、動物愛護の考え方とはあまり相性がよくないように思う。さらに、動物の権利*3とは全く相容れないだろう。いずれ軋轢が表面化しそうだが、さてどう折り合いをつけるべきか。
Wildlife Managementの25年という文章を読むと、冒頭に次のように書かれていた。

25年前の1983年、私は東京農工大学環境保護学科から獣医学科に再入学し、3年目の大学生活を迎えていた。環境保護学科在籍時には丸山直樹先生の研究室に出入りし、下っ端調査員として栃木県日光のクマやシカの調査を手伝っていたが、その現場で調査をリードしていたのが現WMO代表の羽澄俊裕氏であり、クマやシカの捕獲時にどこからともなく現れ、見事な麻酔使いの技を披露していたのが創立者の一人である東英生氏であった。

日本オオカミ協会会長の名がこんなところに!

*1:ワイルドライフマネジメント(野生動物保護管理)とは何か」【PDF】参照。

*2:「Biodiversity」という言葉ができたのは1985年なので、日本語の「生物多様性」は当然それより後、1980年代後半にできたものと思われる。

*3:というか、「アニマルライツ」とカタカナ書きしたほうが通りがいいかもしれない。