ぼくのかんがえたよげんしゃ

古代オリエントの宗教 (講談社現代新書)

古代オリエントの宗教 (講談社現代新書)

これは非常に面白い本だった。
タイトルが表しているとおり、古代オリエントで展開されたさまざまな宗教を紹介している本なのだが、ただ諸宗教を羅列するのではなく、おそらくは著者の造語と思われる「聖書ストーリー」というキーワードを駆使して、そこに一本の筋を通してみせる。『旧約聖書』+『新約聖書』というセットに対して、1世紀から13世紀までのオリエント世界の人々がさまざまなアナザー・ストーリーやサブストーリーを作ってきた歴史の叙述が中心だ。
アナザー・ストーリーやサブストーリーといっても、いわゆる「外典」や「偽典」を扱っているわけではない。『マンダ教聖典』とか『マーニー教七聖典』とか、これまで寡聞にして見聞きしたことのない聖典が出てくる。さすがに『クルアーン』は「ああ、いわゆる『コーラン』のことか」とすぐに見当がついたが。
「マーニー教」というのは確か世界史の授業で習った覚えがある。「マニ教」という表記だったが。しかし、「マンダ教」という宗教のことは全然知らなかった。「ミトラ教」は古代ローマの美術品を扱った展覧会の図録が何かで見た覚えがある程度。その程度の知識レベルなので、この本の内容をうまく要約して紹介することはできないが、新書なのでさほど小難しいことが書かれているわけではない。予備知識があまりなくても読むのに苦労することはないだろう*1
ところで、この本では、東方世界における「聖書ストーリー」は13世紀に『旧約聖書』+『新約聖書』+『クルアーン』のセットで打ち止めになったという判断が下されている。その見立てに異議を唱えるつもりは全くない*2のだが、たとえば19世紀に突如「発見」された『モルモン書』や20世紀に書かれた『原理講論』のような書物が中世のイスラーム世界にもあったかもしれないと夢想してみたくなる。もし、そのような書物があれば、アーサー王佐々木小次郎などが預言者として名を連ねていたかもしれない……というような厨二病妄想を掻き立ててくれる好著なので、そっち方面の数寄者にお薦めの一冊。

*1:ただし「新プラトン主義」など、説明抜きで出てくる用語もいくつかあるので、ウィキペディアか何かでざっと確認しながら読んだほうがいいかもしれない。

*2:そもそも、そんなことができるような学識は持ち合わせていない。