文楽とクラシック音楽とサーカスとストリップ

上のリンク先のテーマは要するに「地方公共団体文化政策において優先順位をどうするか」ということで、下のリンク先のテーマは「地方公共団体文化政策と他の政策の優先順位をどうするか」ということだと解釈した。間違っていたらごめん。
どちらも難しい問題だが、後者のほうがより難しいのは確かだ。民主主義なのだから民意がすべて、というような単純な話ではないだろうと思うが、客観的で万人が納得するうえ、実用に耐える基準*1があるのかどうか。この問題については、以前も何度か考えたことがあるが、まとまった考えを得るには至っていない。

で、前者の問題について私見を述べる。
文化政策のために一定額の予算が確保されているという前提のもとで、それを文楽に使うのか、クラシック音楽に使うのか、それともサーカスに使うのか、あるいはストリップに使うのか、というような話。
自分自身の興味の程度からすれば、こういう順序になる。

  1. クラシック音楽
  2. サーカス
  3. ストリップ
  4. 文楽

でも、大阪市の政策としてどのような順序をつけるかといえば、こう考える。

  1. 文楽
  2. ストリップ
  3. サーカス
  4. クラシック音楽

ちょうど逆の順序になったが、特に意図したものではない。たまたまそうなっただけだ。なお、この順序づけには、教育的観点は含まれていない。それを含めると、たぶんストリップの順位は下がってしまうことだろう。
では、教育的観点を抜きにして文化政策を考えたときには、どういう観点が考えられるか? ひとつには過去から受け継がれた文化を将来へと継承するという文化遺産保護の観点、もうひとつは文化的伝統において特定の地域がどのように関わってきたのかという地域性の観点、そして、さらには文化的多様性の観点なども考えられる。
これらの観点を踏まえて考えると、大阪市クラシック音楽に補助を出す意義はかなり乏しい。クラシック音楽はもともと日本の音楽ではなく、輸入されてから百年ちょっとしか経っていない。それなりに演奏実績を積み重ねて定着しているとはいえるが、ヨーロッパのクラシック音楽とは異なる独自の進化を遂げたとまで言えるだろうか? 不勉強で申し訳ないが、大阪ではフレンチ・ホルンのかわりに「大阪ホルン」を用いている、というような独自性はないだろう。
クラシック音楽文楽はどちらもあまり大衆的ではなく「ハイカルチャー」だとして一括して論じる人もいるが、ハイだのローだのは長い目でみればあまり大きな論点にはならないのではないか。文楽は大阪が育んできた芸能であり、地域性の観点からは最優先すべきだろう。それに比べるとストリップとサーカスはやや優先順位が下がるが、基本的に決まったストリップ小屋で行われるストリップと、全国を巡回するサーカスを比べると、地方公共団体の支援がなじむのはストリップのほうだと思われる。どちらもそろそろ行政の支援がないと消えてしまいそうな芸能だが、大阪市がまず手を付けるとすればストリップが先だと考える次第。
さきほど、ハイだのローだのは大きな論点にならない、と書いたが、ある種の人にとってはかなり違和感があるのではないかと思う。文化に格の上下はないのか? ない、と断言するには勇気がいるので、ここでは「あるかもしれないが、それは不変ではなく歴史的に変化しうるし、同時代に限っても必ずしも評価は一定しない」とだけ言って逃げることにしようと思う。
まあ、実際問題として、ストリップを文化行政が保護するのは風俗業規制との兼ね合いもあって難しいとは思うのだけど、それはストリップが文楽より格下かどうかというのとは別レベルの問題だと思う。
思いつくまま勢いで書いたので、事実誤認や矛盾が混じっているとは思うが、一つの意見として参考になれば幸いです。

追記(2012/08/15)

はてなブックマーク - 文楽とクラシック音楽とサーカスとストリップ - 一本足の蛸のコメントに「公的補助って地元の芸術団体を巡業させるために出ることも多いはずなのでこの議論は若干外しているように思う。あと最近のバーレスクはストリップ小屋だけでやるものではないし、アーティストは旅回りが多いよね。 」という意見があった。「バーレスク」という言葉を知らなかったのでWikipediaで調べてみた。あまり詳しい記事ではないので、「ここには書かれていない細かな事情がいろいろあるんだろうなぁ」という程度の感想しかない。
さて、このコメントの前半部分だが、確かに地元の芸術団体を巡業させるために地方公共団体が補助を行うということはあるだろう。「地方自治体は当該地域の住民の福祉のために税金を使うべきで、巡業のための補助金を出すべきではない」という議論もあるだろうが、上の本文ではそのような主張をとっているわけではない。「地元公演と巡業のどちらが優先順位が高いか」が論点ではないことに留意されたい。「大阪で育まれ独自に発展したストリップ文化」*2と「本拠地は大阪だが全国巡業で成長したサーカス文化」*3のどちらのほうが大阪市文化政策の支援になじむか、という問題*4だ。このような観点そのものが的外れであるという批判なら頭を垂れるしかないが、「地域の文化」と言えるかどうかの一つの指標として巡業を捉えている*5のだということは補足しておきたい。

*1:「実用に耐える」とは、基準を具体的な事例に当てはめる際に入手困難または不可能なデータを必要としない、とか、基準に基づく検討のための経費や時間がさほどかからない、とか、そういうことを想定している。

*2:ざっと調べたところでは、今でも十三ミュージック九条OSほかいくつかのストリップ劇場が現役で大阪市内に存在している。

*3:ポップサーカスの本拠地は大阪市だが、ポップサーカス - Wikipediaの記述をみた限りでは、あまり「大阪のサーカス団」というイメージはない。

*4:これは話を簡単にするためにわざと単純化したものなので、実際の状況がどうなのかは知らない。たぶん、クラシック音楽に比べればストリップのほうが地域性があるのではないかと思うが、それを判断するためには、単に各地方のストリップ興業のやり方の違いだけでなく、地域における受容史なども含めて論じる必要があるだろう。

*5:「ストリップ小屋そのものは土地に定着していても、そこで働く人々はかなり頻繁に全国を移動しているから、巡業の多寡は地域性の指標としては妥当ではない」という批判は成り立つと思う。