もうイヤだステロタイプな地方観

最初、もうイヤだ日本の政治家バカばっか! - デマこいてんじゃねえ!を読んだとき、凄く腹が立った。差別的だと思った。
砂丘しかないド田舎」
「クソ田舎」
「生まれも育ちも支持基盤も地方都市の彼らに、グローバル化する時代の“国際感覚”など望むべくもない」
「田舎のシャッターだらけの駅前」
「田舎の土建屋
政治家をこき下ろしたいのなら、その政治家の業績や言動をネタにこき下ろせばいい。
なんで、こんなに侮蔑的な言葉を並べ立てるのだろうか?
しばらく経って、少し気分が落ち着いてきた。
たぶんこの筆者には田舎に対する差別意識などないのだ、と思えてきた。
単に、地方のことを知らないのだ。
だから最低賃金を2倍にすると何が起こるか - デマこいてんじゃねえ!みたいな変な記事*1を書くのだろう。
まあ、東京生まれで京都在住の人ならしょうがないか……おっと、ダメダメ、出身地や居住地で人を差別しちゃあいけない。あくまでも言動に対して批判するのでないと。

追記

少し補足することにした。
本文の最後で「変な記事」と言っているのは、具体的には次の箇所を標的にしている。

国道沿いのジャスコやスタバ、マクドナルドのなかでも、収益性の低い店舗は次々に閉店するだろう。人件費が高すぎて儲けを出せないからだ。人口密度のとくに低い地域では“郊外型店舗”さえもなくなり、モノも仕事もなくなる。本格的に人が暮らせない場所になる。そして住民たちは近隣の都市部へと移住する。

これに対して、本文の註釈で、こう書いた。

郊外型店舗の従業員は徒歩で通勤しているとでも思っているのだろうか?

これは、「モノも仕事もなくなる」の「仕事」の部分に着目したものだが、「モノ」についても同様のことが言える。

郊外型店舗の客は徒歩で買い物しにくるとでも思っているのだろうか?

要するに、郊外に住む人は仕事にも買い物にも自動車を使うから、郊外型店舗が少々潰れても都市部へ引っ越したりはしない、ということを言いたかったのだ。
むろん、広範囲にわたって店舗が潰れて、自動車を駆使してもアクセスが困難な場合は話が別だが、その想定では郊外だけでなく、地方の中心都市も壊滅していることだろう。
最低賃金を2倍にすると何が起こるか - デマこいてんじゃねえ!では「地方」と対比して「都市部」という言葉が用いられているので、たとえば三大都市圏とか政令指定都市のようなものを想起させるが、一方で「都市部」と対比されている「地方」とは要するに郊外の別名にほかならない。そういうわけで、人口100万人規模の大都市と「ファスト風土」が広がる郊外の中間に位置する*2特例市中核市レベルの地方都市がすっぽりと抜け落ちた議論になってしまっている。

追記の追記(2012/09/17)

本文でもうイヤだ日本の政治家バカばっか! - デマこいてんじゃねえ!について「差別的だと思った」と書いていることに対して、知人から「なぜ差別的だと思えるのかがよくわからない」との指摘があった。
ある事柄に対して差別的な要素を見出すかどうかは、ある程度主観に依存することであるため、よくわからない人がいてもやむを得ないことだと思うが、単に「わからない」というだけでなく、「本当は差別的な要素などないのに言いがかりをつけているのだ」と思われると困る。さて、どう説明しようか、と悩んだ。
んー……。
直接の説明にはなっていないが、以下アナロジーで示すことにしよう。
もうイヤだ日本の政治家バカばっか! - デマこいてんじゃねえ!は「某政党の総裁選」を話題にしているが、その「某政党」に該当すると思われる政党*3で、次のような出来事があった。

魚住昭野中広務 差別と権力』によると、野中は麻生太郎が過去に野中に対する差別発言をしたとして、2003年9月11日の麻生も同席する自由民主党総務会において、麻生を激しく批判した。

総務大臣に予定されておる麻生政調会長。あなたは大勇会の会合で『野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ』とおっしゃった。そのことを、私は大勇会の三人のメンバーに確認しました。君のような人間がわが党の政策をやり、これから大臣ポストについていく。こんなことで人権啓発なんかできようはずがないんだ。私は絶対に許さん!」

野中の激しい言葉に総務会の空気は凍りついた。麻生は何も答えず、顔を真っ赤にしてうつむいたままだった。

手許に『野中広務 差別と権力』がないのでウィキペディアからの孫引きで恐縮だが、興味のある方はぜひご一読頂きたい*4
「部落」という言葉はもともと集落と類義語だったが、今では単に「部落」と言っただけで被差別部落を指すことのほうが多い。このような語の用法の変化をどう評価するかはともかく、少なくとも「部落」という語によって差別が可視化されたことは確かだ。
一方、今のところ単に「地方」「田舎」と言っても、それだけで特定の差別事象と結びつくほどではない。その違いがこのアナロジーの限界でもあるのだが、それを踏まえてじっくりと考えていただきたい。もうイヤだ日本の政治家バカばっか! - デマこいてんじゃねえ!で書かれている罵詈雑言が単に政治家のみに向けられたものなのか、それとも不当な地理的・空間的一般化を含んでいるのかを。
なお、本文でも述べたとおり、もうイヤだ日本の政治家バカばっか! - デマこいてんじゃねえ!の筆者に差別意識などない*5、という考えをとっているため、ことさら差別的言辞に対して糾弾するというスタンスはとっていないことを改めて強調しておく。

*1:最低賃金を2倍にしたときの効果についても疑義があるが、それ以前に、地方における職住についての理解が変。郊外型店舗の従業員は徒歩で通勤しているとでも思っているのだろうか?

*2:というのは必ずしも地理的な意味ではない。念のため。

*3:「総裁」という役職を置いている政党はごくわずかなので、たぶん間違ってはいないと思うが、仮に違っていてもこの文脈では大きな事ではない。

*4:文庫版も出ている。

*5:他人の内心のことなどわからないので、もしかすると差別意識があるのかもしれないが、わざわざ差別意識を措定しなくても単に無知であったと考えるだけで差別的な文章がなぜ書かれたのかを十分了解することができる。