「……に信頼」

国民の命、幸福、安寧を守っていくことが為政者の一番大きな責任だが、前文になんと書いてあるか。私たちの命を「国際社会に預けなさい」と書いてある。 「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して…」。これも変な日本語ですね。「…われらの安全と生存を保持しようと決意した」と書いてある。下手な日本語。文法も間違っている。

「諸君は、自分の想像力に信頼しないで、それぞれの人物を、モデルによつて研究してほしい」と。

近頃は翻譯書と云ふ翻譯書を予の家に持ち込んで、序文を書かせることが流行る。何の縁故もない人が皆持ち込んで來るのである。中には衆愚がお前の序文に信頼するから不本意ながら書かせるのだと明言する人もある。又文字や假名遣を一々世間並の誤字、假名遣に改めた上で載せる人もある。或は想ふに此種の序文注文人と彼誤譯指※(「てへん+二点しんにょうの適」、第4水準2-13-57)者とは同一人であることもありさうである。

彼れはまた思つた。大海の中心に漂ふ小舟を幾千萬哩の彼方にあるあの星々が導いて行くのだ。人の力がこの卑しい勞役を星に命じたのだ。船長は一箇の六分儀を以て星を使役する自信を持つてゐる。而して幾百の、少くとも幾十の生命に對する責任を輕々とその肩に乘せて居る。船客の凡ては、船長の頭に宿つた數千年の人智の蓄積に全く信頼して、些かの疑も抱かずにゐるのだ。人が己れの智識に信頼する、是れは人の誇りであらねばならぬ。夫れを躊躇する自分はおほそれた卑怯者と云ふべきである。

里村は気が気でなかった、波止場はすでに向うに見えている。彼はいても立ってもいられなかった。ことに、自分の体力に信頼しきって悠然とかまえている田中のそばにいるのがもう辛棒できなかった。彼はふらふらとデッキのベンチをたち上って船室へ降りていった。