伝統と価値

「伝統には価値がある。従って伝統は守らなければならない」という型の議論を行う人は多いが、必ずしも彼らの主義主張は一致するわけではない。というのは、伝統と価値の関係について少なくとも2つの異質な考え方があるからだ。

  • ある事柄が反復継承され、遙か昔から現代にまで伝えられているということは、伝えられている事柄にそれ相応の価値があるということの証拠である。
  • ある事柄が反復継承され、遙か昔から現代にまで伝えられているということ自体が価値の源泉である。

これら2つの考え方は両立可能だが、人によってどちらに力点をおくかが異なるため、細かな議論を展開する場では、ときには大きく意見が異なることもあり得る。たとえば、伝統の価値を認めない人を説得しようとするとき、差異がはっきりとあらわれる。前者の考えをとる人なら、いったん伝統の価値を棚上げして相手の土俵に乗ったうえで、合意点を見出すことができるかもしれない。だが、後者の考えに全面的に依拠する論者なら、伝統の価値を棚上げすることができないため、説得はかなり困難になるだろう。