藁人形に向かって矢を射る


「Yの悲劇」。雑誌などでオールタイムベスト投票などが行われると、しばしば上位に食い込んでくる名高い不朽の名作である。
話を日本に限るなら、おそらくこれより高い評価を受ける本格ミステリは存在しない。「この「Yの悲劇」が目に入らぬか」と掲げれば、どんな口うるさいミステリファンもひれ伏すというありがたい名作なのだ。
確かに『東西ミステリーベスト100 (文春文庫)』では『Yの悲劇』が海外篇の1位に選ばれているが、今から20年も前のことだ。いまオールタイムベストを選んだらどうなるのか予想もつかないが、さすがに『Yの悲劇』が1位に選ばれるとは考えにくい。
いや、問題はそんなことではない。「どんな口うるさいミステリファンもひれ伏す」とか「ありがたい名作」という書き方は冗談にしてもいただけない。現実にはいそうもない、教条的で頭でっかちのミステリファンを揶揄するのは楽しいかもしれないが、余計なノイズをネットに撒き散らされるのは迷惑だ。
『Yの悲劇』に感心しなかったのなら感心しなかったで結構。『Yの悲劇』にひれ伏すミステリファンなど引き合いに出す必要などあるまいに。