七年間の省略
- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/10/20
- メディア: 新書
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『扉は閉ざされたまま』ほどではないが、『水の迷宮』も発表当時にはかなり話題になった作品だと記憶しているのだが、家に帰って奥付を見るとまだ初刷だった。あれ? 増刷かかっていないの?
『扉は閉ざされたまま』はかなりガチガチのパズラーだったので身構えて読んだが、『水の迷宮』はわりと気軽に読めた。推理の過程にはあまり華はないが、そこそこ堅実で納得できる。ただ「この結末はちょっとなぁ」と思った。
(以下、内容に触れます。)
「片山の夢」を実現するにはさまざまな難問を解決しなければならない。法的問題、技術的問題、財政的問題などなど。それらの問題をどうやって解決していくのかが語られずに、いきなり七年の時を超えて完成品を見せられても感銘が全くない。「プロジェクトX」ではないのだから、夢の実現に向けた苦労話を延々と述べるわけにもいかなかったのだろうが、それにしても端折りすぎだ。
もともと「片山の夢」にはいきものへの愛情が満ち溢れていて魅了されるわけでもなく、構築への意志が漲っていて圧倒されるわけでもない。こんなのが実際にあったら見世物としては面白いだろうが、その面白さは巨大仏を見たときに感じるものに似ていて、心の底から感動するようなものではない。だったら、夢の中身はさておき、その実現に向けて努力する人々の姿を描くことで感動させるしかないわけだが、肝腎のその場面がすっぽり抜け落ちている。これが「この結末はちょっとなぁ」と思った主な理由だ。*2
ただし、これは『水の迷宮』のミステリとしての評価とは無関係だ。地味なロジックを丁寧に積み上げてきちんと説明する姿勢には好感が持てる。機会があれば他の作品も読んでみることにしよう。