孤独な人への助言

もしもあなたが孤独に苛まれ、寄る辺ない生に疲れ切って、声にならない悲鳴をあげて、苦しみもがいているのなら、あなたは旅に出るべきだ。
どこに?
決まってる。名古屋だ。
名古屋には地下鉄がある。名古屋市営地下鉄だ。
札幌にも仙台にも東京にも横浜にも京都にも大阪にも神戸にも福岡にも地下鉄はある。地下鉄とは言い難いけど、長野にも金沢にも奈良にも地下に鉄道が走っている。鉄道とも言い難いけど、広島にも地下線はある。けれど、札幌にも仙台にも東京にも横浜にも京都にも大阪にも神戸にも福岡にも長野にも金沢にも奈良にも広島にもなくて、ただ名古屋だけにあるものがある。それは地下を走る環状線だ。
山手線では駄目だ。大阪環状線などもってのほかだ。
周囲の景色が見えるようでは、孤独な心は癒されない。暗い地中をぐるぐると回ってこそ癒される。だから名古屋の地下鉄に乗るに限るというものだ。
大江戸線? そりゃ駄目だ。あれはぐるぐる回らない。都庁前で降ろされる。乗り換えするたび我に返り、惨めな気持ちにさせられる。ああ、惜しむべきは東京都の財政難! 新宿駅から枝分かれして、新宿西口駅への路線を造り、環状運転していれば、都心のオアシスだったのに。だが悔やんでも仕方がない。ゆめもぐらの夢果つるとも、名古屋に行けば安心だ。名城線名城線、そうだ名古屋には名城線がある。
回るよ回るよぐるぐる回る、名城線はぐるぐる回る。名古屋駅から中央線で一駅乗ればもう金山だ。東海道線なら二駅だ。金山から地底に潜り、ぐるぐる回る名城線へ。右回りでも左回りでもお気に召すままお望み次第。
一周すれば一段下がる。二周すれば二段下がる。見かけは同じ金山駅でも、線路は螺旋を描いて下へ下へ、三周、四周、五周に六周、知らず知らずの知らぬが仏、電車は地底の闇黒へどんどん下るよまっしぐら。ほら、ホームを見てご覧。誰もいないよ、乗る客もない。灯りはぼんやり駅名不明、そのうちドアも開かなくなる。
そして回ること十三回、最初に乗った金山駅から九段下のそのまた四段下、そこに辿り着く頃には、あなたの気鬱もすっかりと消し飛んでいることだろう。そう、もはや孤独は存在しない。目に見えぬ者どもがそっとあなたのそばに寄り、あなたは優しく包まれる。
合掌。