ある種のアンケートの是非について

すべてのアンケートがそうだというわけではないが、多くのアンケートが共有している難点がある。それは、アンケートを通じて知りたいと思っている情報が実際には得られていないのに、あたかもそれが手に入ったかのように錯覚しがちであるという点だ。
そんなことを考えたのは、以下の記事を読んだからだ。


 公共の場での喫煙を全面的に禁じる全国初の「受動喫煙禁止条例」制定について、賛否を問う神奈川県のインターネットアンケートで、日本たばこ産業(JT)が社員を動員して組織的な反対票を投じていたことが15日、分かった。
もちろん、日本たばこ産業の行為の是非は大いに議論の対象になる事柄だが、ここで注目したいのはそのことではなく、公共団体がこのような仕方でアンケート調査を行うことの是非のほうだ*1
たまたま今回は利害関係企業の組織票が発覚したので問題になった。だが、仮に組織票など全くなくても回答者が母集団*2の傾向を代表している保証のないアンケートは統計的に正しくない。そして、統計的に正しくないアンケートの結果は全く信用できない。信用できない情報をもとに政策を検討するのは躓きのもとだし、そんな情報を公開すれば人の心を惑わせる。
もちろん、常に100パーセントの確実性を追い求めることはできないし、100パーセント確実ではない情報はすべて無視するという態度をとるのは馬鹿げている。だが、どれくらいの確実性を期待できるのかすら判然としない情報に価値を見いだすのも同様に馬鹿げたことだろう。そんなアンケートならやらないほうがましだ。
ところで、今、受動喫煙を防止するための公共的な場所での喫煙規制についてのアンケートの集計結果を見ていて気づいたのだが、各設問の回答者数の対全体比は小数点以下の数値を切り捨てて表章されているようだ。たとえば、問題となった受動喫煙禁止条例案への賛否をたずねる問8では、4047人中1738人が賛成しているのだが、これを「42%」と表章している。
手許の電卓で計算してみると、「1738/4047*100=42.9453916481」となった。統計理論を無視した調査結果について、何桁目まで有効なのかと問うても仕方がないが、もし一の桁までとるなら、ふつう四捨五入して「43%」と表章するのではないだろうか? 数字をまるめるのに四捨五入ではなく切り捨てという方法を選んだのに何か理由があるのかどうか、ちょっと気になった。

*1:ただし、是非が問われうるのはアンケートの実施者が公共団体の場合に限られるわけではない。ある程度影響力のある組織、たとえばマスメディアや学術団体などが行うアンケートも同様に批判的検討の対象となるべきだろう。

*2:明記はされていないが、e-かなネットアンケート : 神奈川県の趣旨から考えて、その母集団は神奈川県民ということになるだろう。