カタカナ美術館で炬燵に入った話

見出しの「炬燵」は「こたつ」と読んでください。

昨日、ボーダレス・アートギャラリー NO-MAに行ってきた。最近はやり(?)のアールブリュット専門の美術館*1だ。開催中の展覧会、ウチナル音 〜身体音からの造形〜のチラシを見かけて、その何とも言いようのない怪しさ、いや、妖しさに興味を惹かれたのだ。
近江八幡近江商人のふるさとで、古い商家が比較的よく遺されていて*2伝統的建築物群保存地区に指定されていることと、明治に来日したヴォーリスゆかりの洋風建築が多いことから、近年、街並みそのものを観光資源として売り出そうとしている*3。その流れとどの程度関係あるのかは知らないが、このまちの古い町家を改造して、「ボーダレス・アートギャラリー NO-MA」*4が開館したのが今から3年前の2004年6月のこと。当時は「アールブリュット? アウトサイダーアート? 何それ? 洋菓子か炭酸飲料のこと?」というくらい無知無関心だった*5ので、この施設の存在はは全然知らなかった。
一方、2005年に国立民族学博物館で開催された特別展「きのうよりワクワクしてきた。」を見に行って、筆舌に尽くしがたい衝撃を受け、こういうのがほかにもないものかと探していたところ、この展覧会の基本コンセプトである「ブリコラージュ・アート」と類縁のもの*6として「アールブリュット」なるものがこの世にはあるらしいということを何かの機会に知った。
それからいろいろあって、「ボーダレス・アートギャラリー NO-MA」の存在を知り、ようやく昨日の初訪問となったわけだが……いや、驚いた。展示室の床に人が寝転がっていたのだ。元々民家だった建物なので、床の間がそのまま残っていたり、障子があったりするので、座布団を半分に折って枕がわりにして昼寝をしている人がいても、その光景自体に違和感はないのだけど、でもやっぱり「この人は誰? これもアートの一部?」という疑問は払拭できなかった。
さらに驚いたことに、2階の端の部屋*7の真ん中に炬燵があり、そこに近所の人(?)が子供連れで座って、ポン菓子*8を食べていたことだ。炬燵の前にはテレビがあり、アールブリュットを紹介したテレビ番組を録画したDVDを見せてくれるというので、促されるままに座り込んでポン菓子*9を摘みながらテレビを見ていると、お茶を出してくれたので有難くいただいた。
非常に不思議なひとときだった。
「ボーダレス・アートギャラリー NO-MA」の入館料は200円だが、1000円の近江八幡観光パスポートを買うと、市立資料館かわらミュージアムに入れるほか、八幡山ロープウェーに乗って山頂まで往復できる。せっかくの機会なのでいちおう全部回ることにしたのだが、昼食時に待たされたのと、「ボーダレス・アートギャラリー NO-MA」で予想以上に時間を費やしたのとで、最後のほうは駆け足状態で、せっかくロープウェーに乗ったのに山頂を一周する時間がなく、すぐ次の便で降りる羽目になった。ヴォーリズ建築もほとんど見られなかったのも残念だ。だが、日本国内では3つしか存在しない瓦専門の展示館の残る2館がかわら美術館かわら館だということを知っただけでも大きな収穫だ。いつの日か、この2つの館も訪れたいものだ。

*1:「美術館」という言葉を「主に美術品を収集し展示する博物館」という意味に捉えると、少し違うような気もするのだが、「画廊」とも言い難いし、ほかに適切な言葉もないので「美術館」を用いることにする。

*2:ただし、実際には「修景」と称する手入れがかなりあるらしい。同じ滋賀県の長浜ほどではないが、どことなく作り物のいかがわしさが感じられた。

*3:ただし、どの程度成功しているのかは疑問だ。関西に住んでいても、近江八幡を観光地としてイメージしている人は少ないように思う。

*4:「NO-MA」というのは何の略だろうと不思議だったのだが、もと野間さん宅だったからだそうだ。何だそりゃ。

*5:今でもたいして知識があるわけではない。よって、「そもそもアールブリュットとは……」と一席ぶつことはできない。興味のある人は各自調べられたい。

*6:「ブリコラージュ・アート」は作品の素材に着目した概念を表す言葉であり、作者側からみた「アールブリュット」とは全く趣旨が異なるのだが、実際の作例をみると、かなり重なっているように思う。ただ、「ブリコラージュ・アート」という言葉じたいがあまり一般的ではないせいか、ネット上で両者の関係を説明した記事を見つけることはできなかった。

*7:貰ってきたチラシを見ると「ライブラリー」と書かれているが、和室の壁際の本棚にパンフレットやカタログなどが置かれているだけだった。

*8:「ポン菓子」というと、和風ポップコーンのようなお菓子を連想するのだが、それとは違って、薄べったくさくさくとした煎餅に似た菓子だった。

*9:一袋100円。本棚に置いてある料金箱に入れるというシステムだった。