旅を無闇に引き伸ばす、寄り道だ。

狼と香辛料 (6) (電撃文庫)

狼と香辛料 (6) (電撃文庫)

今回の見出しは『狼と香辛料』6巻24ページから。このシリーズの現状をよく表している一文だと思う。
ラノベオタと一般オタのタイムラグは約1年だそうで、抱き枕化、マンガ化、アニメ化、そしてゲーム化まで発表されていまや一般オタク層にも相当浸透しつつある『狼と香辛料』だが、シリーズ開始当初からずっとリアルタイムで読み続けてきたライトノベル読者の間では、既にシリーズは盛りを過ぎて下り坂に入っているとの観測*1がなされている。後はいかにしてこの下り坂をいかにして失速せずに下り切るかが見所だ……と前巻の段階では考えていたのだが、ここに来て物語はやや予測を外れる展開に出ることとなった。次巻以降への「仕込み」と見られる要素がいくつか出ていて、終末の遅延が明らかとなったのだ。
その「仕込み」も前巻から継承したもの、今巻で新たに設定された目標、次巻に引き続き登場するであろう人物、パズル的な謎、など多様だ。これらのうちのいくつかはすぐに収束するかもしれないが、さらに次々巻にまで持ち越しそうな「仕込み」もある。原則として1巻1事件の数珠繋ぎというシリーズ構成だったのが、今後はより複雑なプロットになるのかもしれない。
旅の終わりがもう目の前に見えているのにそれを無闇に引き伸ばす引き延ばす*2寄り道をするのは、あまり好きではない。同じ「仕込み」でも子種を仕込むほうがなんぼか自然だ。そう思う気持ちがある一方で、ネタの仕込みにあまり無理がないことと、*3モジュラー型(?)への転換の行く末を見届けてみたいという気もある。
寄り道で食う道草の味は如何? さらなる「仕込み」*4はあるやなしや?

追記

後から読み返してみると、見出しが見出しだけに「ああ、安眠練炭はこの巻を読んでつまらないと思ったんだな」と思われてしまう可能性があることに気づいた。ちょっと補足。
感想を簡単にいうなら、6巻は(私見ではシリーズ最高の)3巻ほどの緊張感はないが、1巻や2巻の頃に比べてずっと面白くなっているし、5巻に比べても話に動きがある*5ので楽しめた、というところ。もちろん、4巻とは比べるべくもない。
このシリーズは最初、商売を巡る駆け引きやコンゲーム的な要素の面白さに惹かれて読み始めたのだが、物語の力点が「今そこにある危機」から「漠とした将来への不安」へと次第にシフトしていく*6のを見るにつけ、単独の巻の仕掛けや盛り上げ方のみを取り上げて個別に分析的に評価するのはあまり意味がないと思うようになった。そこで、前回はこれは『狼と香辛料(5)』の感想文ではないという見出しをつけてシリーズの来し方行く末についてあれこれと思うことを書いておいたのだが、今回も同じ方法をとることにした次第。
とはいえ、新刊が出てそれを読んだときに書く感想文*7で、当該巻の内容についての感想を全くなしにするのも変だと思い直したので、少し追記してみた。
ところで、はてな界隈の感想文を見ていていちばん納得したのは、狼と香辛料 VI - 酩酊亭日乗で書かれている*8こと、特に次の箇所だ。

続刊分が十分に面白かった場合は、重要な分岐点となる巻と解釈されるだろうし、そうでなかった場合は、惨めな引き延ばしが開始された巻、ということになる。

7巻ではおそらく5巻からの因縁の解消が中心となり、骨の話まで収拾をつけることにはならないだろう。それは8巻以降に持ち越すとして、間にニョッヒラの「お風呂でドッキリ!」のようなエピソードが挿入され、ヨイツに到着するのは9巻か10巻、あるいはもうひとつくらい事件を入れて11巻か。とすると、間の3〜4巻が面白くなければ「5巻の後すぐにヨイツへ向かっていればよかったのに6巻からおかしくなったな」という評価になるのは目に見えている。
さあ、この先どうなるのか! 作者本人と関係者にとっては他人事ではない(当たり前!)が、無責任な第三者にとってみると、今後の展開は非常にスリリングで興味深い。面白くなればそれでよし、面白くなくてもそれはそれで面白い*9。抱き枕を梱包しつつ、次々巻*10を待つことにしよう。

*1:この観測には多少の感情的な要素が紛れ込んでいる可能性があるが、今はそれを特に問題にしない。

*2:最初、見出しにも掲げた作中の表記にあわせて「引き伸ばす」と書いたが、どちらかといえば「引き延ばす」のほうが適切ではないかと思ったので変更した。とはいえ、「引き延ばす」が絶対的に正しくて「引き伸ばす」のほうは誤記だとまで言うつもりはない。漢字の「伸/延」の意味とやまとことばの「のばす」の意味との間の関係は必ずしも明確ではないので、どんな場合でもきっちり使い分けができるわけではないだろうから。

*3:言葉の続き具合がおかしいことに気づいたので、この箇所は削除する。「ネタの仕込みにあまり無理がない」という評価を撤回するわけではない。

*4:特に子種。

*5:なにも物語の動きは登場人物の動きのみによって決まるわけではない。

*6:もうひとつ、「外的条件の変化についての恐れ」から「自分の内面の変化に対する恐れ」へのシフトもあるかもしれないが、こっちはあまり明白なことではないので、今のところは保留。

*7:前回は5巻が出る前に書いているので、厳密にいえば「新刊が出てそれを読んだとき」ではないが、細かいことは気にしないでほしい。

*8:閑話休題」の意味を取り違えていると思うが、それはたいした問題ではない。

*9:これは「シリーズの自作以降の内容が面白くなくてもそのような展開になるのを眺めることは面白い」という意味。最近、某所で説明をわざと省略して見かけ上逆説的になるという効果を狙った文章に対して、全然読めてない人が「それは論理的に矛盾している!」と突っ込んでいるのを見かけたので、それを他山の石として、野暮を承知で説明しておく。またこの追記全体もそのような意図に基づくものだ。

*10:次巻は短篇集だそうなので。