夏と金魚と写真の表紙

ポイポイポイ (スーパーダッシュ文庫)

ポイポイポイ (スーパーダッシュ文庫)

「最高のライトノベルは何か?」と訊かれたら*1桑島由一の『南青山少女ブックセンター』シリーズだ」と答えることにしている。軽くてすらすらと読めて楽しくて、そして読んだ後には何も残らないという、まさに入神の技だ。
南青山少女ブックセンター〈1〉 (MF文庫J)

南青山少女ブックセンター〈1〉 (MF文庫J)

しかし、この意見に同意してくれる人は少ない。たぶん、あまり、売れなかったのだろう。いくらでも続けられそうなのに、このシリーズは2巻で打ち止めとなった。同じMF文庫Jから出ている『神様家族』シリーズが大ヒットしたので、そちらを優先するという事情があったのかもしれないが、そっちも終わったのだし、そろそろ『南青山少女ブックセンター』の続きを出してくれないものか、などと思っていたら、『神様家族』の続篇(?)*2が出てしまった。うーん。神様家族』も別につまらないわけではなくて、そこいらのライトノベルに比べるとずっと無類に面白いのだが、『南青山少女ブックセンター』の「軽み」の境地には達していない。出たからにはそのうち読むつもりだが……あ、8巻もまだちゃんと読んでいなかった*3
ところで、桑島由一の作風は軽いだけではない。読み残しがいくつもあるので、その全体像を語るわけにはいかないが、少なくとももうひとつの路線がある。人の生死を含む重いテーマを扱った内省的青春熱血バトル路線だ。『神様家族』にも多少その気があるが、よりストレートなのが『大沢さんに好かれたい』だ。
大沢さんに好かれたい。 (角川スニーカー文庫)

大沢さんに好かれたい。 (角川スニーカー文庫)

これも非常に面白かった。「ライトノベルだからって軽いだけじゃ物足りない」という人にお薦めだ。
『大沢さんに好かれたい』は以前2巻の予告が出たことがあって、ぎょっとした覚えがある。1巻本できっちり完結していて、続きを書いても蛇足にしかならないんじゃないか、と思ったからだ。「さすがスニーカー文庫!」と感心はしたけれど、本当に2巻が出たらどうしようと不安になったのだが、幸いこれは予告倒れに終わった。
さて、前置きが長くなったが、いよいよ『ポイポイポイ』だ。
この作品は去年10月に出た。代表作『神様家族』シリーズ完結後、しばらく商業媒体で小説を発表していなかったので、桑島由一の復活第1作として話題になった。もうひとつ話題になったのが、この本が「絵のないラノベ」だったことだ。カバー絵は上の書影リンクのとおり写真だし、本体口絵部分も同じく写真、本文中にも挿絵はない。
ただ、発売前に取り沙汰されたわりには、いざ実物が出てみるとネット上のラノベ系サイトではあまり取り上げられなかった……ような気がする。いや、桑島由一の新作なんだから、それなりに読まれてはいたし、そこそこ感想文もアップされていたのだが、どうも印象に残っていないのだ。駄作だと罵倒する人はいなかったが、「面白い」とか「傑作」とか、そういった素直な讃辞もなく、ねちねちと分析する長文書評も見あたらなかった。単に目にとまらなかっただけかもしれないが。
結局、「かつてヒット作を物した作家の単発もののあまりぱっとしない作品」という程度の評価で落ち着いて、そのまま忘れ去られてしまった感がある。まだ発売から半年も経っていないし、今でも品切れにはなっていないはずだが、日々ライトノベルは大量生産され、ラノベ読みはその処理に追われているのだから、少し前の作品がどんどん忘れられていくのもやむを得ない。
で、ネット上の評価があまり芳しくなかったため、というよりは単に読書意欲が落ちていたからという理由のほうが大きかったが、『ポイポイポイ』を買ってから机の上に積みっぱなしにして、年を越してしまったのだが、このたび旅行のお供に『ポイポイポイ』を鞄に入れて、見渡す限りの雪原をゆくローカル列車の中で一気に読んでみると、これがまあ無茶苦茶面白い。
以下、その感想……と思ったが時間がなくなった。続きは夜に。

*1:そう訊かれたことはほとんどないが。

*2:未読なので、どういう設定になっているのか知らない。

*3:本篇は7巻で終わり、8巻は番外篇となっている。「まんたんブロード」に連載されて「史上初の新聞連載ライトノベル」として話題になったショートショート(?)だけ読んだ。