狼は出てこない神話

現実の女性に失望していた彼は、あるとき自ら理想の女性・ガラテアを彫刻した。その像を見ているうちにガラテアが服を着ていないことを恥ずかしいと思い始め、服を彫り入れる。そのうち彼は自らの彫刻に恋をするようになる。さらに彼は食事を用意したり話しかけたりするようになり、それが人間になることを願った。その彫像から離れないようになり次第に衰弱していく姿を見かねたアプロディテがその願いを容れて彫像に生命を与え、ピュグマリオンはそれを妻に迎えた。

森の妖精(ニンフ)のひとりエコーが彼に恋をしたが、エコーはゼウスがヘラの監視から逃れるのを歌とおしゃべり(別説ではおせじと噂)で助けたためにヘラの怒りをかい、自分では口がきけず、他人の言葉を繰り返すことのみを許されていた。エコーはナルキッソスの言葉を繰り返す以外、何もできなかったので、ナルキッソスは「退屈だ」としてエコーを見捨てた。エコーは悲しみのあまり姿を失い、ただ声だけが残って木霊になった。これを見た復讐の神ネメシスは、他人を愛せないナルキッソスが、ただ自分だけを愛するようにする。ある日ナルキッソスが水面を見ると、中に美しい少年がいた。もちろんそれはナルキッソス本人だった。ナルキッソスはひと目で恋に落ちた。そしてそのまま水の中の美少年から離れることができなくなり、やせ細って死んだ。ナルキッソスが死んだあとそこには水仙の花が咲いていた。この伝承から、スイセンのことを欧米ではナルシスと呼ぶ。また、ナルシ(シ)スト(ナルシシズム)という語の語源でもある。