一迅社文庫2009年2月刊行全3冊の感想

はじめに

これは今月発売の新刊ではなく、先月分の感想文です。念のため。

さくらファミリア! 3

さくらファミリア! 3 (一迅社文庫 す 1-4)

さくらファミリア! 3 (一迅社文庫 す 1-4)

一迅社文庫の人気シリーズのひとつ『さくらファミリア!』もようやく完結した。楽屋ネタの多さとキャラの書き分けのなさが気になったものの、ノリがよくて読むのが苦にならないのはよかった。
187ページで天使たちが合唱するのは、言わずとしれた受難コラール「O Haupt voll Blut und Wunden」だ。後期ルネサンス期の作曲家、ハスラーが世俗歌曲「わが心は千々に乱れ」として作曲し、後に武満徹がギター曲「フォリオス」に引用した、あのメロディを思い浮かべながら読んだ人も多いことだろう。このメロディの最もよく知られた使用例は大バッハの「マタイ受難曲」だが、『さよならピアノソナタ』の作者のことだから、同じバッハのもう一つの有名曲を持ち出すのではないかと予想していたら、全く大外れだった。えーっ、作品のプロットにぴったりなのに……。
最近、量産しているせいか、かつてのように伏線をいっぱい張って練り込んだ作風ではなくなっているが、余計なことは考えずに気楽に読めるのは有難い。来月、MF文庫Jから新刊が出るそうだが、今後も杉井光は要チェックの作家と言えるだろう。

ようこそ青春世界へ!

ようこそ青春世界へ! (一迅社文庫 あ 1-1)

ようこそ青春世界へ! (一迅社文庫 あ 1-1)

「ラブ」より「コメ」の比重が大きい学園ラブコメ。いちおう演劇ものだが、キャラ重視で話を転がしていくので、あまり演劇関係のネタが出てこない。「レビュー殺し」と言われるだけあって、なかなか感想が書きづらいのだが、序盤のかったるさを乗り越えればそこそこ面白い作品だと思う。
ただ、99ページ9行目とか197ページ最終行とか、あまりにも不用意な記述が目立ったので、個人的にはあまり高く評価したくはない。もっと丁寧に書いてもらいたいものだ。

あまがみエメンタール

あまがみエメンタール (一迅社文庫 み 3-1)

あまがみエメンタール (一迅社文庫 み 3-1)

これも文章表現面で不満が残る作品だった。「満面の笑顔」*1ってどうよ? また、小学生から高校生になるまで、文体が全然変わらないのが気になった。日記ではなくて、後から回想して書いているという体裁なので、これでいいのだという考え方もあるだろうが、同じ文体で書き通しているせいで、主人公の成長が全く感じられなかったのも確かだ。
それはともかく、閉鎖空間としての学園で二人の女子生徒の共依存関係を描いた微エロ混じりの物語としては非常に楽しめた。あとは、サスペンスを盛り上げる仕掛けがあればなおよかったのだけど……。

おわりに

先月から今月にかけて「小説読めない病」が発病したせいで、たかだか3冊のラノベを読むのにひどく時間がかかってしまった。今月分はもうちょっと早く読み終えたいと思うが、まだ病気が治りきっていないので、月内は無理かもしれない。いちおう一迅社文庫が最優先*2だが、年度末は何かと忙しいので、さていつになることやら。

*1:「満面」の「面」はお面のことではなくて、顔そのもののことなので、その後に「笑顔」がくると「面=顔」がダブる。「満面に笑顔を浮かべる」状況を想像すると、身震いがしてきそうだ。この、なんというか、顔の上に小さなぶつぶつがいっぱいできていて、それをよく見るとひとつひとつのぶつぶつが人間の顔そっくりで、しかもニタリニタリと笑っている、というような。

*2:より優先すべき『秋期限定栗きんとん事件』はすぐに読んだので、今は一迅社文庫より先に読むべき小説はない。『狼と香辛料X』がまだ読み終わっていないが、これは3月の新刊を読み終えてからにしよう。