「讃岐の阪急」にLRVが走る日は来るか?
LRT(次世代型路面電車)の導入など、新しい都市交通のあり方を考える「高松市総合都市交通戦略検討協議会」(会長・土井健司香川大工学部教授)の第3回会合が27日、香川県高松市の高松市役所であった。複数の委員から、琴電琴平線の軌道にLRTを走らせる構想の提案があり、今後の会合で採算面や技術面などを含む実現可能性について検討することを申し合わせた。
【略】
この日の会合では、複数の委員から、琴電琴平線の現軌道を利用し、複線化用地を確保している高松築港―仏生山間にLRTを走らせる構想が提案された。市企画課によると、LRTは低床で弱者に優しく、本数や電停を増やすことで利便性の向上が見込める。このほか、「仏生山駅を郊外と中心部の交通結節拠点とすべき」「LRT化なら中央通りをまたいで高松築港駅とJR高松駅をつなぐことが可能になるのでは」などの意見が出た。
見出しに掲げた「LRV」という略語には馴染みのない人も多いことだろうが、「琴電琴平線の軌道にLRTを走らせる」などという、鉄道愛好家にとっては耐え難い言い回しを避けるためなので、ご容赦いただきたい。
さて、上に引用した記事を読むまで、「高松市総合都市交通戦略検討協議会」などという協議会があることを知らなかったのだが、なんとなく微妙に奇妙な気配が漂っていて興味を抱いたので、ちょっと調べてみた。
残念ながら、まだ上の記事で取り上げられている第3回会合の会議録は掲載されていなかったが、第1回と第2回の会議録を見るだけでもなかなか楽しかった。少し紹介してみよう。
まず第1回会合から。
- (委 員)
- 再確認したいが、当然、新交通システムの検討が中心になると思われるが、新交通システム以外の、他の手段については、検討しないのか。
- (委 員)
- 例えば、先進的なバス、小型バス、環境配慮型のバスなどを利用して、高松市内を回り、様々な場所に容易に行くことのできるバスシステムなどについて、当協議会の中で、検討してもらえるのか。
- (事務局)
- バス利用の促進等については、運輸局サイドで、高松市におけるバスタウン整備など、バス利用の促進について、ある程度、議論されていると考えている。当協議会では、中心市街地を対象とした、新交通システムの導入の可能性検討といった位置づけであり、新たにバス利用については、考えていない。
- 中心市街地については、本日、列挙している新交通システム等の検討を予定している。
- (委 員)
- 新交通システムありきの検討ということか。
- (事務局)
- 新交通システムに、BRT:連結バスの事例があったが、例えば、中央通りは、法的に制約等があり、優先レーンはあるが専用レーンとはなっていない。今後、専用レーンとして、定時制や高速性を備えた、新交通システムの議論は可能であるが、当協議会では、ある程度メリハリをつけて、新交通システムを中心に議論を行いたい。
- (委 員)
- この協議会の中で、新交通システムの導入が、中心市街地の公共交通として相応しくない、また、導入が難しいとなった場合、どうするのか。
- (事務局)
- 議論を重ねたい。採算性の検討は、避けられない問題であり、採算性が合わなければ、元 に戻して議論をしたい。回数を重ねることによって、見える部分もあると思っている。
このやりとりから、「高松市にとにかく新交通システムを導入したい!」という事務局の熱く真摯な思いがひしひしと伝わってくるではないか。
で、「本日、列挙している新交通システム」というのは、会議資料に掲載されている次の5種類*1の交通システムのことだと思われる。
- (1)BRT (Bus Rapid Transit)
- BRTとは、輸送力の大きなノンステップバスの投入、バス専用レーン、公共車両優先システム等を組み合わせた高次の機能を備えたバスシステムである。
- (2)ガイドウェイバス
- ガイドウェイバスとは、専用道路を前後輪付近に取り付けているガイドウェイに従い走行する。ガイドウェイを収納してしまえば、通常のバスと変わらないため、一般道も走行可能となる。
- (3)LRT (Light Rail Transit)
- LRTとは、従来の路面電車が高度化された公共交通システムであり、車両の低床化、乗心地の向上(低振動、低騒音)などユニバーサルデザインが徹底されている。また、路面走行が基本となるが、地下、高架、さらに既存鉄道への乗入れも可能となっている。
- (4)IMTS(Intelligent Multimode Transit System)
- IMTSとは、高度道路システム(ITS)を用いたシステムであり、車両は走行路面中央部に埋設された磁気マーカに沿って走行制御され、車々間通信などによって自動的に速度制御されるため、無人運転が可能である。また、車両自体は、バスと同じのため一般道も走行は可能である。ただし、その際には運転手が必要となる。
- (5)AGT (Automated Guideway Transit)
- AGTとは、案内軌条式のシステムであり、専用軌道をゴムタイヤで走行し、路線の側方の案内軌条から給電し、モーターで走行するシステムである。
LRTの説明だけに「ユニバーサルデザイン」という言葉が使われているのが興味深い。
次に第2回会合の記録をみてみよう。
- (委 員)
- 本日の資料における,問題解決のための方策1,2,3というのが,唐突のように思える。
- 例えば,方策1,2,3の問題解決の可能性の評価(○,△,−(解決困難))は,誰がどういった基準で決めたのか。こうした内容は,協議会で意見交換し,実のあるものにするために,意見を共有してもいいのではないか。例えば,方策1の4 中心市街地活性化の支援で,「来街者や定住者の回遊性向上」が,−(解決困難)となっているが,本当にそうなのだろうか。バスレーンが強化され,定時性が向上されることで,観光客も含め,バス利用者が増加するのではないか。
方策1,2,3というのは次のとおり。
それぞれの方策に対して、13の課題の解決可能性を○(解決可能)、△(条件により可能)、−(解決困難)の3段階で評価している。これを一覧表にまとめてみよう*2。
課題 | 方策1 | 方策2 | 方策3 |
---|---|---|---|
(1)鉄道とバスの役割分担により分かりやすく、便利な公共交通体系の構築 | △ | ○ | △ |
(2)公共交通の運行頻度、定時性の向上 | ○ | △ | ○ |
(3)JR高松駅・琴電高松築港駅の結節機能強化 | − | − | △ |
(4)JR高松駅・琴電瓦町駅の両ターミナル間内の利便性向上 | − | △ | ○ |
(5)琴電の平面交差の解消等による中心市街地のまちづくり | − | − | △ |
(6)バリアフリー化の推進 | △ | △ | △ |
(7)高齢者等にも分かりやすい交通サービスの提供 | △ | △ | ○ |
(8)官公庁、病院、福祉施設等へのアクセス向上 | △ | △ | △ |
(9)都心中心部における短距離移動のマイカー利用抑制(公共交通、自転車への転換) | − | △ | ○ |
(10)パークアンドライド等による都心中心部への自動車流入の規制 | △ | △ | △ |
(11)サンポート高松と中央商店街との連携強化 | △ | ○ | ○ |
(12)来街者や定住者の回遊性向上 | − | ○ | ○ |
(13)過度に自動車に依存しない交通体系の構築 | △ | △ | ○ |
さらに、○△−の数を集計してみる。
区分 | 方策1 | 方策2 | 方策3 |
---|---|---|---|
○ | 1 | 3 | 7 |
△ | 7 | 8 | 6 |
− | 5 | 2 | 0 |
こうやってまとめてみると一目瞭然だ。方策3、すなわち新たな交通システムを作るのがたったひとつの冴えたやりかただ。
でもこれ、よく考えてみるとかなりおかしな評価だ。たとえば、課題(4)は「琴電の平面交差の解消等による中心市街地のまちづくり」という意味がわからない書き方になっている。琴電の平面交差が解消されるとなぜまちづくりに繋がるのか? 踏切廃止による道路渋滞の緩和とか、分断されたまちの一体化とか、そういった効果なら理解できるのだが、一足飛びに「まちづくり」などという曖昧模糊とした話に繋がっていくのが解せない。
しかし、この課題の意味は不明でも意図は明確だ。方策1,2,3により課題(4)はどう扱われることとなるのか、資料から抜き出してまとめてみよう。
方策 | 課題解決の可能性 | 内容 |
---|---|---|
方策1 | − | 琴電の平面交差は解消しない |
方策2 | − | 琴電の平面交差は解消しない |
方策3 | △ | 新交通システム等の導入やトランジットモール等の導入によりまちづくりへの貢献が可能 |
要するに、課題(4)を単に「琴電の平面交差の解消」にしてしまうと、方策3でも解決困難ということになってしまうため、すべての課題に対して○か△をつけるためには課題の焦点をぼかす必要があったのだ。しかし、これはひどくアンフェアなやり方ではないだろうか。方策1や2でも、やりようによってはまちづくりへの貢献が可能かもしれないのに、前二者については琴電の平面交差が解消しないという点だけを強調し、方策3についてのみまちづくりへの貢献可能性を評価基準としているのだから。
5種類の新交通システムのうちLRTがユニバーサルデザインの面で特別扱いになっていることと併せて考えると、最初から用意された結論に協議会の委員を誘導しようとする意図が見え見えで他人事ながら気分が悪い。その結果が冒頭に引用した記事なのだとすれば、もう何と言えばいいのかわからない。
最後に、この協議会の舞台裏を垣間見させてくれる発言を引用しておこう。
- (委 員)
- 疑問に思ったのは,平成21年度に国土交通省に提出しなければいけないから,議論するというのであれば,少し悲しいなと思う。生まれた時からずっと高松に住んでおり,愛着もあるので,みんなが暮らしやすいようにするためのまちづくりをしてもらいたい。もっと長い目で,じっくり時間をかけて,本当に住みやすいまちにしていただけるような協議会になればよい。
【略】
「国土交通省の補助対象事業」というのが具体的にどの事業を指すのか、これだけではわからないが、いろいろ調べてみたところ「都市・地域における総合交通戦略の推進」という事業ではないかと思う*3。以下、参考リンク。
最後の最後に市長提言公開 > 都市整備 >総合都市交通の会議録についてにもリンク。