支倉凍砂の軌跡は谷川流のそれをなぞっている

上の話題に関連して、1年ほど前に書いた文章を再掲する。

支倉凍砂の軌跡は谷川流のそれをなぞっている。デビュー直後からネット上のラノベサイト界隈で注目を集め、『このライトノベルがすごい!』で1位になり、やがてラノベファン以外にも認知されてゆき、そしてアニメ化へと至るという、一見栄光に満ちた道筋の裏で、物語はどんどん停滞していき、ときおり作者の苦渋の陰が見え隠れし、この迷走状況はいったいどこまで続くのかと思っているうちに、シリーズ初の上下巻へと至る。

もちろん、相違点も探せばいくらでもある。たとえば谷川流は「ハルヒ」以外にもいくつかのシリーズを物しているが、支倉凍砂は「狼と香辛料」以外には書いていない*1。「ハルヒ」はアニメが大ヒットしたが、「狼と香辛料」は中ヒット程度だった。「ハルヒ」は多くの聖地巡礼者を生んだが、「狼と香辛料」の聖地巡礼など聞いたこともない。などなど。

だが、小異を捨てて大同に目を向けるなら、支倉凍砂は基本的に谷川流と同じ道を歩んでいると言えよう。ただし、二人の距離はデビューが3年弱、「このラノ」1位が2年、アニメ化が2年弱、と少しずつ縮まっている。そして、上下巻の上巻の発売は『涼宮ハルヒの分裂』が昨年3月、『狼と香辛料VIII』が今年5月だから、1年強のタイムラグとなっている。

この相似形を前にして、読者は何を期待するのか? もちろん、1年前に谷川流が成し遂げた「驚愕」の再現だ! 新キャラが登場し、事件を予感させるエピソードが積み重ねられ、いよいよこれから面白くなりそうだといういちばんいいところで宙ぶらりんにしてしまうミラクルを、もう一度みたい、体験したいと思わないファンがいるだろうか? 口には出さなくても、みんな思っているはずだ。「このまま下巻が出なかったら(ネタとして)面白いよな」と。

その後の展開は皆さんご存じのとおり。『狼と香辛料』における「驚愕」の再現は成らず、それどころかこのシリーズは今も順調に巻を重ねてすらいるので、それが大きな相違点になってはいる。ただ、アニメ第2期の開始など、依然として類似点もある。このタイムラグは数え方によっても異なるが概ね2ヶ月というところか。
そして、今回の発表により、支倉凍砂もまたマンガ原作へと進出することが明らかとなった。谷川流が原作を務める『蜻蛉迷宮』の連載開始は昨年6月、支倉凍砂原作の『ビリオネアガール』の連載開始は今年9月だから、タイムラグは1年3ヶ月。単行本ベースでのタイムラグはまだわからないが、掲載誌はどちらも隔月刊なのでおそらく大きく開いたり縮まったりすることはないだろう。
蜻蛉迷宮』の作画担当の菜住小羽はこれがデビュー作のようだ*2が、桂明日香ウィキペディアによれば2003年デビューということなので、もう中堅と言っても差し支えないだろう。このほかにも細かな違いはいくつかある*3ので、あまり類似点を強調しすぎるとまずいようにも思うので、今はこれくらいにして、今後の動向を注視することにしたい。

*1:もしかしたら書いているかもしれないが発表していない。

*2:ちゃんと調べ切れていないので『蜻蛉迷宮』以前に商業作品があったかもしれないが、少なくとも連載はこれが初めてのはず。

*3:たとえば、掲載誌の版元が角川グループに属しているかどうか、など。