登窯で色絵は焼けないらしい

Amazonにはこの本のデータが登録されていないのか? 見つけることができなかった。残念。
この本の副題は「神の手の贈物 伊万里説」となっている。非常に謎めいたタイトルだが、「神の手」がいわゆる「ゴッドハンド」こと藤村新一氏のことだとわかれば、意味が掴めるだろう。
もっとも、古九谷を巡る論争*1に藤村氏が直接関わっているというわけではない。旧石器時代の遺跡の発掘調査における藤村氏の業績になぞらえるべき人物が、近世の陶磁に関する発掘調査にもいたのだという疑惑を「神の手」という言葉に凝縮しているのだ。
では、その「近世陶磁史界のゴッドハンド」は誰なのか? 残念ながら名指しはしていないが、著者の疑念がこの本で何度も名前が出てくるある人物に向けられていることは一目瞭然だ。その人物はまだ存命であり、名誉毀損で訴えられることを恐れたのかもしれないが、明記していないというだけで読めば誰でもわかることだから、これはちょっとまずいんではないかと思ったのだけど、地方出版物*2だし、たいして影響力はないのかもしれない。
ところで、この本の第五章の終わりのほうに奇妙な記述があった。古九谷として重要文化財に登録*3されたものを東京国立博物館が「伊万里焼古九谷様式」として展示するのは法律違反だ、と主張しているのだが……。

しかし、これは古九谷の重要文化財。明らかに法律違反だった。【略】古九谷が本当に伊万里なら、今からでも法律の改正をすべきではないだろうか。

文化財保護法をざっと読んだ限りでは、重要文化財の指定の際に用いられた名称と異なる名称をもって公開することに違法性はないように思われる。商取引を行うわけではないので不正競争防止法も関係ないだろうし。
「法律違反」云々は単なるレトリックだと読み流すのがいちばんなのだろうが、こういう論争的な本でそういうレトリックを持ち出すのはどういう意図であれ好ましくないと思う。

*1:古九谷が九谷で焼かれたのか、有田で焼かれたのかという論争。

*2:「発行:時鐘舎 発売:北國新聞社」となっている。

*3:「登録」ではなくて「指定」ではないかとも思うのですがどうでしょう?