言いたいことはよくわかった、しかし……

独裁者 “ブログ市長”の革命

独裁者 “ブログ市長”の革命

非常に面白い本だった。
現在の地方自治制度や地方行財政の問題や「地方分権*1」「道州制」などの話題について、非常に明快な議論を展開しており、読みやすくためになる*2自治大学校市町村アカデミーで教科書として採用してもいいのではないかと思った。
しかし、これだけ広い視野と見識がありながら、話が阿久根市のことになると、議会と市職員への憎しみが書き連ねてあるばかりで、これらの「敵」を打倒した後、阿久根市をどうしていきたいのかというのが全然見えてこないのが不思議だった。もしかすると、大所高所からの一般論と足元の話題とは別人が書いているのではないかと邪推してしまったくらいだ。
たとえば、肥薩おれんじ鉄道の問題*3に対してこれからどのように対処すればいいのか? たとえば、A-Zスーパーセンター*4中心市街地の商店街の関係をどう考えるのか? 産業振興の手立てはあるのか。人口流出を食い止める策は? そのような疑問に対する明確な回答はもとより、著者の構想を推測する手がかりすらもなかった。
「これは、そういう本ではないのだ」と割り切って読むのがいいのかもしれない。
しかし、せっかく現職の市長が書いた本なのだから、現在紛糾している事象についての見解だけでなく、阿久根市の未来像についてのある程度の素描くらいは欲しかった。ついでにいえば、15年早かったら『珍日本紀行』に取り上げられたこと間違いなしのシャッターアートのことも書いておいてくれると面白かったのだけど。
まあ、ないものねだりしても仕方がない。これはこれでかなり楽しめたので満足だ。

おまけ

『独裁者』124ページから。

私は、議会が不同意とした教育長候補を教育総務課長として新規採用し、教育長を兼務させることとしました。もちろんこの採用は、阿久根市の市職員の任用に関する規則にも明記された正当な手法です。同規則の「選考による採用」に当たり、通常の試験や議会の同意は必要ありません。また、教育長が空席の場合、教育総務課長がこれを兼務することも死の規則に定められており、これもルールに則った方法になります。

ここまで自信満々に「正当な手法」と書かれてしまうと、阿久根市教育委員会事務局職員の任免権が市長にあるのだと考えざるを得ないのだけど、本当?*5

*1:または「地域主権」。この二つの言葉の意味がどのように違っているのかは知りません。

*2:一方、どの論点についてもどこかで見聞きしたような話が多く、著者の独自性はさほど感じられなかった。

*3:この本の96ページから97ページで言及されている。

*4:公式サイトが見当たらなかったのでウィキペディアにリンク。

*5:この点については、ここで疑問を呈しておいたのだが、天下の讀賣新聞もスルーしているくらいだから、もしかすると本当に本当かもしれないという気がしてきた。