シカ来たりなば

JR東海によると、同社管内でシカと列車の衝突事故は2008年度に514件あり、05年度の2倍に増えた。09年度には紀勢線高山線で、減速運転や侵入防止柵の設置などの対策を強化し、一時的に事故は減った。だが今年度は12月13日までに412件あり、09年度を46件上回っている。

このような衝突事故は、列車の遅れだけでなく、車両が壊れたり、死体を処理する保線作業員がダニに刺されたりする危険もあり、JR東海の担当者は「これ以上、見過ごせなくなった」と話す。

イノシシ、サルと並ぶ有害獣御三家*1のひとつ、シカは最近猛烈な勢いで増えていて、各地で駆除が行われているが、上の記事で挙げられている対策のほとんどはシカを線路に寄せ付けないようにするものだ。追い払いや忌避剤などもある程度の効果はあるにしても、生息密度が増してくると焼け石に水だろう。そろそろ駆除を検討すべき時期だが、実際にJRがシカの駆除に乗り出したという話は聞かない。
たぶん、ハンターの確保が最大のネックなのだろうが、別レベルの問題もありそうだ。
野生鳥獣は鳥獣保護法*2で保護されていて、原則として捕獲したり殺傷したりすることはできないのでシカを駆除するには原則として捕獲許可が必要*3だが、許可を受けられるのは同法第9条により次の場合に限られている。

  • 学術研究の目的
  • 鳥獣による生活環境、農林水産業又は生態系に係る被害の防止の目的(いわゆる「有害捕獲」)
  • 第七条第二項第五号に掲げる特定鳥獣の数の調整の目的(いわゆる「管理捕獲」)
  • その他環境省令で定める目的
    1. 鳥獣の保護に係る行政事務の遂行
    2. 傷病により保護を要する鳥獣の保護
    3. 博物館、動物園その他これに類する施設における展示
    4. 愛がんのための飼養
    5. 養殖している鳥類の過度の近親交配の防止
    6. 鵜飼漁業への利用
    7. 伝統的な祭礼行事等への利用
    8. 前各号に掲げるもののほか鳥獣の保護その他公益上の必要があると認められる目的

これをざっと見た限りでは、シカが列車に衝突する事故を防止するという目的が該当する項目がないように見える。環境省の解釈では、有害捕獲のうち「生活環境に係る被害の防止」に当たるそうだが、鉄道線路は「生活環境」と言えるのかどうか、ちょっと首を傾げたくなる。素直に考えれば、カラスがゴミを漁ったり、アライグマが家の屋根裏に住み着いて暴れたりするのが、「生活環境に係る被害」なのではないだろうか。
そういえば、神社仏閣の貴重な文化財がアライグマに引っかかれて困るという事例が京都や奈良で増えているけれど、これも狭い意味での「生活環境」ではない。法律の条文を見直したほうがいいんじゃないだろうか、と思ったのだけどいかがでしょう?

*1:というのは今思いついたフレーズなのであまり気にしないように。

*2:正式には鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律だが、廃止された鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の略称をそのまま引き継いで「鳥獣保護法」と呼ばれることが多い。年配の人は「狩猟法」とも呼。

*3:「原則として」を2回も使ってしまった。例外の説明はややこしいので省略。