日光を見て、もう結構

連休を利用して鬼怒川温泉と日光へ観光旅行に出かけた。
鬼怒川といえば、何といっても鬼怒川秘宝殿だ。

かつては日本各地にあった秘宝館もいまや絶滅寸前となっているので、営業しているのかどうか危ぶんだのだが、幸いまだ大丈夫だった。
ふつう秘宝館は内部の撮影が禁止されているのだが、ここは撮影OKだったので、あちこちでバシャバシャと写真を撮りまくったのだが、さすがにここでそれを公開するのはやめておこう。ナニがあるのかは直に見てのお楽しみ。
ところで、鬼怒川秘宝殿の出口には売店があり、大人向けのグッズが売られている。その中に、1冊の本があった。

I LOVE 秘宝館

I LOVE 秘宝館

店の人曰く、「この本は売り切れちゃっててねー、版元も潰れてるからもう入手できないんだ」とのこと。
あれ?
版元のウェブサイトを見る限りでは、まだまだ現役のようなのだが……?
ここには何か大きな齟齬があるような気がしたが、そんなことはどうでもいい。『I LOVE 秘宝館』は持ってるし。
で、次に向かった*1のが日光だ。日光といえば世界遺産。日光を見ずして結構と言うな。
三連休で絶好の行楽日和とあって、東武日光駅前に降り立つと、そこはもうえらい混雑ぶりだった。

だが、今回の目当ては中禅寺湖方面ではないから平気だ。世界文化遺産に登録された「日光の社寺」のすぐ近くにある小杉放菴記念日光美術館が目的地だ。
この美術館のことはつい数日前まで知らなかった。そもそも小杉放菴なる人物のことすら知らない。ウィキペディアには小杉放庵 - Wikipediaという項目があるが、美術館のほうには草冠がついている。山田耕作山田耕筰と改名したようなものか。こっちは竹冠だけど。
閑話休題
先日、近所の美術館で全国の美術展のチラシを集めたファイルを眺めていたところ、小杉放菴記念日光美術館で開催中の「香川大介――生の絵画展」のチラシがあった。香川大介なる人物のことも知らなかったが、チラシに掲載されている「無題」という絵をみて興味をそそられた。
これって、升目描き*2ではないのか?
升目描きというのは、江戸時代中期に活躍した伊藤若冲の有名な「鳥獣花木図屏風」「樹花鳥獣図屏風」*3などで用いられている技法だが、若冲の後には升目描きの作例はほとんどないと聞く。絵心のない人間には技術的な難易度はわからないが、途方もない労力を要する描き方だということは素人でもよくわかる。追随者が出なかったのも納得できる。
その升目描きに現代の画家が挑戦しているのだとすれば大したものだ。だが、チラシの画像だけでははっきりと確認できない。裏面の「霧降動植物図」も升目描きっぽいのだが……。
そこで、実物を直にみて確かめようと思い立ち、小杉放菴記念日光美術館を訪れることにしたわけだ。
この美術館は中に入るとふたつの展示室があり、展示室1は常設展示のようだった。目指す升目描きは展示室2のほうにある。

なんと、写真撮影OKなのか!
遠慮なくバシャバシャと写真を撮影したが、著作権侵害にあたるためここには掲載することができない。あしからず。
現在開催中の展覧会は「合併5周年記念 一体感醸成企画 日光在住の作家たち」というシリーズのIIとIII*4で、「小坂憲正――感じる扉」の立体作品群が部屋の中に立てられて、それらを取り囲むように「香川大介――生の絵画展」の絵画作品が壁に掲げられるという構成になっていた。最初のほうはそれがわからず、少しまごついたが、後から考えると、なるほどよく考えられた配置だと思う。
ただ、「合併5周年記念 一体感醸成企画」というのはどうにも役所臭がしていただけない。平成の合併で栃木県全体の1/5以上を占める巨大市になってしまい、なんとかまとまりを持たせようとしているのだろうが、「一体感醸成」などと銘打ってしまうと逆にこの市には一体感がなくばらばらだということを市内外にアピールすることになってしまうのではないだろうか?
まあ、それはともかく、展示室の壁に掲げられた絵を順番に見ていくと、いくつかの絵は内面のどろどろとした情念を板やパネルに叩きつけたような感じの絵で、それはそれで迫力を感じはするものの、グロテスクさに辟易するようなところもあり、正直にいえばかなり苦手なタイプの絵だった。
さて、チラシ表面の「無題」は見当たらなかった*5が、別の「無題」、チラシ裏面に掲載されている「霧降動植物図」、そして展示作品中最大の「生老病死群像」など、升目描きを使った絵が複数枚あった。わざわざ日光まで足を運んだ甲斐があったというものだ。
その後、いちおう二社一寺も参詣したが、やたらと商魂たくましくて「もう結構」という気分になった。おしまい。

*1:ただし、鬼怒川温泉で1泊したので、鬼怒川秘宝殿を訪れた翌日のこと。

*2:「桝目描き」という表記もあるが、どちらが正しいのか、あるいはどちらも正しいのかは知らない。ここでは「升目描き」に統一する。

*3:前者はプライスコレクション、後者は静岡県立美術館所蔵。

*4:文字化けを避けるため、ローマ数字の2と3をそれぞれIで代用した。

*5:チラシ表面でもっとも目立つ形で紹介されている絵が展示されていないというのは常識的には考えられないことだが、展示室で撮影した写真を後で見返してみても該当する絵はなかった。不思議なことだ。