矮小化された小松左京

日本、買います―消えていく日本の国土

日本、買います―消えていく日本の国土

この本は「小松左京の慧眼」と題する節から始まり、小松左京の「日本売ります」からの引用文が冒頭に置かれている。『日本、買います』という書名自体が「日本売ります」の捩りであることは一目瞭然だ。しかし、小松左京のスケールの大きさに比べると、この本の視野の狭さは如何ともしがたい。
小松左京は日本が地球上から消えてしまうという話をいくつか書いている。もっとも有名なものは長篇『日本沈没』だが、短篇では「日本売ります」のほか「日本脱出」という作品もある。消えてしまうわけではないが外部世界から隔離されてしまうという話には「物体O」があり、長篇『首都消失』もその変形と言えるかもしれない。
一方、『日本、買います』が主に扱っているのは、外国資本によって日本の土地が買われていくことに起因する問題だ。この問題をどの程度まともに受け取るかは人それぞれだろうが、少なくとも小松左京が描いたような日本の物理的消滅や隔絶とは全く異なる問題だ。小松左京が生きていたなら、異質な問題を提起した書籍の冒頭で自作を引き合いに出されたことに苦笑したのではないだろうか。
そういうわけで、『日本、買います』の冒頭部分にはあまり感心しなかったのだが、そのようなハッタリが好きな人にはお薦めの一冊だと言えるかもしれない。日本の登記制度の欠陥や遅々として進まない地籍調査、形骸化が進んでいる国土利用計画法に基づく届出制度など、今の日本が抱えている土地制度の病理現象の素描としても一読の価値がある。