田中角栄のアセット

恥ずかしながら、今の今まで「アセット」という言葉を知らなかった。アセット【asset】の意味 - 国語辞書 - goo辞書によれば、資産とか財産とかいう意味だという。覚えておくことにしよう。
さて、本題。
『企業が「帝国化」する アップル、マクドナルド、エクソン〜新しい統治者たちの素顔』 松井博著 これからの時代に必要なものとは? - 物語三昧〜できればより深く物語を楽しむためにを読んだ。推敲の大切さをひしひしと伝えてくれる名文だが、それはともかく、次の箇所が気になった。

ただし、この日本社会のヘンさに関して、そうはいっても僕は非常にポジティヴな感覚を持っています。なぜならば、アート以外の部分では、世界の競争に、圧倒的なレベルで負け続ける日本の教育、人材ですが、ことアートの文脈に関しては、世界の最前線を驀進しているからです。それが、社会的に登用されたり、育てていって、マネタイズに結びつき、帝国の囲い込みのような生活をリデザインする「仕組み構築者」にスキルアップして上昇させる仕組みが弱いところが日本的ではありますが、そうはいっても、世界最高レベルのメガリージョン・メトロポリタン・トーキョーを持ち、かつ後背地である田舎が本来なら全面没落する世界的な潮流の中で、先進国の先行者である強みを生かし、田中角栄によって為された「均等な国土開発」というアセットがあるが故に、人材のプールのすそ野が広い。こんな素晴らしい国は、なかなかないのだ、と僕はいつも思う。問題はあまたありすぎるほどあるが、それは逆に非効率が故に、まだまだやれるということでもある。ちきりんさも似たようなことを言っているし、僕の最近(読者家の先輩として!)とても尊敬する出口治明さんもことあるごとに同じことをいってらっしゃいます。これは、自分のなんちゃってフィーリングに非常に裏付けを与えてくれるようで、いつも勇気づけられます。日本の未来は、僕もとても明るいと思っている。

恣意的に文章の一部を切り出すのではなく、せめて一段落まるまる引用しなければ、と思ったら、えらく長くなった。これでは、気になった「次の箇所」がどこかがわかりにくいと思うので、もう少し絞り込みを行う。

そうはいっても、世界最高レベルのメガリージョン・メトロポリタン・トーキョーを持ち、かつ後背地である田舎が本来なら全面没落する世界的な潮流の中で、先進国の先行者である強みを生かし、田中角栄によって為された「均等な国土開発」というアセットがあるが故に、人材のプールのすそ野が広い。

んー? この文章の筆者がどこで生まれてどこで育ち、今はどこに住んでいるのか、ということは全然知らないのだが、田舎で生まれて田舎で育ち、今も田舎で住んでいる自分の経験から言えば、日本の田舎はここ数十年ですっかり衰退してしまったし、今では人材供給力が非常に乏しくなっていると感じられる。まあ、他国のことは知らないので、もしかしたら日本は「まだまし」なほうなのかもしれないのだけれど。
ところで、上の引用文とは直接関係はないのだが、田中角栄の「アセット」といえば、国土利用計画法という法律がある。最初この法律を読んだとき、第3章までと第4章以降が全く乖離しているように思えて、なんでこんな変な法律があるのだろうと不思議に思ったのだが、事情通に聞くと、田中角栄が首相の頃に「国土総合開発法案」という開発指向の法案があったのが田中首相の失脚とともに廃案になり、その残りかすをかき集めて議員立法で作ったのが国土利用計画法だということだった。
ちょっと紛らわしいのだが、当時、国土総合開発法という法律が別にあった。その後題名を変えて国土形成計画法となっているが、現行法だ。国土利用計画国土形成計画も、近年はメディアで取りざたされることも少ないし、なんだか時代に取り残されたような感じだなぁと思っていたのだけど、最近たまたまナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会の資料をみていたらナショナル・レジリエンス(防災・減災)の検討範囲【PDF】に出ていてびっくりした。
「ナショナル・レジリエンス」というカタカナ言葉も意味があまりよくわからないのだが、今年に入ってから多用されるようになっているようだ。これはすなわち「国土強靱化」の二つ名でありまして、なるほど田中角栄のアセットだと一人で納得した次第。