続・将来予測の難しさについて
先日、将来予測の難しさについて - 一本足の蛸という記事を書き、1986年に書かれた「地価神話の崩壊」という論文を紹介した。外れた予測をあげつらって嗤うという趣旨ではない。専門家がさまざまなデータをもとに行った緻密な予測であっても当たるとは限らないということを示したかったからだ。過去の予測を現在の状況に照らして読み返すことは、今まさに行われている数々の将来予測をどう受け止めるべきかを考える参考になるだろう。
さて、一昨日、図書館でこんな本を借りてきた。
- 作者: Foresight編集部
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2000/09
- メディア: 単行本
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ところで、「ならず者国家」の対米テロについての質問に回答しているのはジャーナリストの藤村幹雄という人物だが、その回答は次のように始まる。
北朝鮮、イラン、イラクなど「ならず者国家」による大量破壊兵器攻撃の阻止はクリントン政権最大の国家安保目標だが、今後十年間にならず者国家の米国攻撃が起きる可能性は「ノー」。米国がならず者国家を制裁攻撃する可能性は「イエス」だ。
この後、アメリカと「ならず者国家」の軍事力の差を説明し、最後にこう締めくくっている。
ならず者国家論は、米国の軍産複合体が後押しした壮大なフィクションと言えるかもしれない。
しかし、米国のならず者国家への懲罰攻撃は次期政権でも続くだろう。最高指導者の力を誇示し、新鋭兵器のテストもできるからだ。今や米国自身が「rogue superpower(ならず者超大国)」と言えなくもない。
また、80の質問とは別に設けられた「次の10年を動かす注目の80人」というコーナーでは、オサマ・ビン・ラディンが取り上げられ、静岡県立大学助教授の宮田律という人が次のように書いている。
ビン・ラディンは九八年の米ABCとのインタビューで、化学・核兵器使用の可能性にも言及しており、今後、思わぬ場所で、思わぬ形で、米国人や米国関連施設へのテロを仕掛けてくる可能性は否定できないだろう。
この2つだけを取り上げてみれば、その後の歴史が言い当てられているようにも思われる。「ならず者国家」として名指しされたイラクは対米テロを行わなかったのに、ビン・ラディンのテロを口実にアメリカに攻め込まれてしまったのだから。だが、この本には外れた予測も数多く含まれていることは言うまでもない。
次に、80の質問の中で回答が「NO 100%」となっているものを次に列挙することにしよう。
さすがに100%あり得ないと断言された項目はすべて当たっている。では、90%以上の確率で「NO」とされたものはどうか……などと調べて定量的に分析するには時間がかかるので、やめておこう。
実はこの本を読んでもっとも興味深いと思ったのは、質問への回答内容やその当否ではなく、質問そのもののほうだった。
たとえば、こんな質問がある。
- 家庭内の電化製品がすべてネット化する日は到来するか
- ネット広告は市場規模でテレビ・新聞広告を凌駕するか
2000年といえば、ウィンドウズ95が出て5年経ち、インターネットが一部の専門家やマニアだけでなく、一般にも浸透しつつあった頃だから、このような質問があってもおかしくはない。しかし、さらにインターネットの浸透と拡散が進んだ今となっては、政治経済社会全般オールジャンルの80の質問のうちにインターネット関係だけで2項目も立てることはないのではないかと思われる。
ほかにはこんな質問もあった。
- 田中真紀子氏は日本初の女性首相になれるか
- イギリスの王室制度は廃止されるか
- 孫正義氏の資産は国家予算規模にまで増えるか
- 「分数もできない大学生」は当たり前になるか
- コンピュータは将棋で羽生五冠を破るか
それぞれの回答の「YES/NO」および確率は書かない。興味のある人はどうにかして入手して読んでみてほしい。
もし、今「あの10年に何が起こったか」というテーマで主要な話題を80ほど挙げるとすれば、たぶん、この本の80の質問とはかなり違ったものになるだろう。その意味で、将来予測というのは難しいものだと思う。「2010年までに日本の世界遺産は10以上になっているか」というような質問があってもよかったと思うのだが。
さて、この本の最後には「Foresight」という雑誌の広告が掲載されている。
1990年の創刊以来、「激動の90年代」とともに歩んできた国際政治経済情報誌「フォーサイト」。
いま21世紀を迎えるに当たって、さらにその情報力、分析力を強化しました。「先見性」を駆使して、時代の一歩先を読む雑誌です。
この雑誌、「時代の一歩先を読」んだためかどうかは知らないが、「次の10年」の最後の年に休刊した。今はForesight(フォーサイト)|会員制国際情報サイトとなっている。