既視感のある風景

さっき書いたまちから店がなくなる日蔦屋書店 武雄市図書館に触れた。特に取り上げるまでもなかったのだが、最近ずっと武雄市図書館を巡る話題を追いかけているので、ふと言及したくなったのだ。
武雄市図書館は毀誉褒貶・賛否両論、何かと話題の多いところだ。図書館以外の話題も含めて通覧したい人は佐賀県武雄市の問題について:takeoproblemを参照されたいが、ざっと雰囲気を掴むだけでいいならTwitterで「武雄市」で検索してみるといい。今のところ圧倒的に批判的な意見が優勢だ。
昨日くらいからTwitter武雄市図書館という名の衝撃~図書館が創る未来~《書店をゆく番外編》 - 天狼院書店という記事がよく言及されていた。何でも、図書館の駐車場が満車だったのでゆめタウン武雄の駐車場に駐車場を置いたのが問題視され、当該箇所を削除のうえ記事末尾に追記されているという*1
この記事を読むまで、天狼院書店なる団体(?)のことを何も知らなかったのだが、少し興味が出てきたので天狼院書店―未来を創る次世代型「リアル書店」をみんなでつくるプロジェクトを読んでみた。今年8月に池袋で実店舗を開く予定があるようだ。YouTube - 「天狼院書店」紹介動画というのもあるが、動画の半分以上はいろいろな人が入れ替わり立ち替わり天狼院書店を応援するというもの。いったいこの動画の制作者はどういう意図をもってこれを作ったのか、ちょっと気になるところではある。
会社案内 - 天狼院書店には代表取締役のプロフィールが掲げられている。なかなかユニークな経歴の人のようだが、特に面白かったのは次の箇所。

大学を中退してからは、バイト先などから正社員への打診も何件かうけるが、ハングリー精神を失わないためにとバイト生活を選び、また背水の陣をもって小説を書き続ける。23才から25才のあいだには、自分が書きたいままに小説を書き上げる。完成した小説は原稿用紙2700枚にもおよぶ大長編であったが、無論、そんな長い小説はどの文学賞にも応募できず、お蔵入りとなる。

少しは世の中の基準に自分を合わせてみようと、文学賞を勉強し始め、娯楽小説の最高権威、江戸川乱歩賞だけに照準を合わせる。二度投稿して、二度とも予選は通るものの、落選。落選を繰り返す内に、自分が人殺しを書くのが好きではないことにようやく気付く。

たぶん、この人に会ったことはこれまで一度もないはずだ*2。だが、このような感性と経歴の人には何人にも出会ったことがある。みんな若くて貧乏で頼りなくて、しかし目をみるとギラギラしていた。
中には後に小説家、マンガ家、シナリオライターなどになった人もいる。創作活動そのものではなく、編集者になることで業界に足がかりを掴んだ人もいる。小説家志望から書店経営へと転進した人は知人の中にはいないが、まあ考えられるルートではある。
武雄市図書館を巡るさまざまな問題点を知ってか知らずしてか、ほとんど手放しで絶讃していることや、乱歩賞に何度も応募してから「人殺しを書くのが好きではないことにようやく気付く」というようなところに危うさは感じるものの、心底憎む気にはならない*3。池袋に東京天狼院書店が開店した暁には、一度は立ち寄ってみたい、という気分になった。
なお、昔出会った「目がぎらぎらした若者たち」の中には、イベントやオフ会などに顔を出す機会が減り、サイトの更新も途絶えがちになり、いつの間にか連絡先メールアドレスも使えなくなって、どうなったのか不明の人も何人かいるということを、いちおう最後に書き添えておこう。

おまけ

シャッター商店街の大逆襲!『なぜ小さなコスメ店が大型ドラッグストアに逆襲できたのか?』ついに発売!《メイキング・オブ・逆襲》 - 天狼院書店という記事を読むと興味のあるテーマだけに気になるのだが、書店でこの種の本が置いてある棚はふだんスルーしているので全然知らなかった。実際に見かけても買うかどうかわからないが、備忘録代わりにここに書いておくことにする。

*1:修正前の文章はここで読める。修正後の文章はこちら

*2:芳林堂書店で働いていたそうだから、もしかしたらニアミスしたことくらいはあるかもしれないが、それは「会った」うちに入るのだろうか?

*3:まあ、見ず知らずの赤の他人なので、よほどのことが書かれていないと憎むことはないのだけど。