「凶器」に関する備忘録

黒い画集 (新潮文庫)

黒い画集 (新潮文庫)

松本清張の短篇集『黒い画集』は「天城越え」が飛び抜けて有名だが、個人的には「凶器」がもっとも印象に残っている。『黒い画集』は確か小学6年生の頃に一度読んだきり*1だが、幼心にあの意外な凶器の正体と、その凶器の隠し方が強烈に焼き付いた。
で、最近、Twitterで次のようにつぶやいた。

いちおう補足説明しておくと、「歯と胴」は泡坂妻夫の初期短篇で1冊まるまる傑作揃いの『煙の殺意』に収録されている。「歯痛の思い出」も泡坂妻夫の短篇で亜愛一郎シリーズ。『歯と爪』はB.S.バリンジャーの代表作。「おとなしい凶器」はロアルド・ダールの『あなたに似た人』に収録されている名作。どれもこれもミステリ愛好家であれば基礎教養として読んでいるはずの有名作ばかりなので、内容の紹介はしない。
さて、一夜あけてから、ふと「凶器」についてこんなことをつぶやいた。

「妖魔の森の家」の作者はカーター・ディクスンだが、字数の都合で「カー」と書いた。『カー短編全集2』の表題作でもあるし、目くじらを立てる人はあまりいないと思うが、いちおう言い訳しておく。
「妖魔の森の家」は人間消失テーマであり凶器トリックではないのだが、「凶器」の凶器消失トリックと似ているところがある。そこで調べてみると、「凶器」が発表されたのは1959年で、「魔の森の家」(江戸川乱歩訳!)の3年後だった。よって、松本清張は、この作品に影響を受けて「凶器」を書いたのではないかと思ったのだ。
これをつぶやいてから「おとなしい凶器」の初訳について調べてみると、EQMM日本語版の創刊第2号、すなわち「魔の森の家」の翌月号に「おとなしい兇器」として訳出されていた*2なので、どちらが「凶器」により大きな影響を与えたのかはわからないな……と思っていたところ、さらに一夜明けてこんなリプライをもらった*3

えっ、オルツィ?
モリー夫人は女性探偵の草分けとしてミステリ史に残っているので知識としては知っていたが、昔、今より読書意欲が旺盛だった頃にはまとまった形で読むことができなかったし、訳書が刊行された頃にはすっかり読書力が減退した後だったので、残念ながら未読。

レディ・モリーの事件簿―ホームズのライヴァルたち (論創海外ミステリ)

レディ・モリーの事件簿―ホームズのライヴァルたち (論創海外ミステリ)

探せばまだ入手できそうな本なので、今度暇があれば……と言いつつフェードアウト。

*1:なぜそれを覚えているかというと、当時高校生だった家人に高校図書室から借りてきてもらって読んだからだ。その後、自分で『黒い画集』を買ったり借りたりしたことはないので、読んだのが1回きりだと断言できる。ただし、「凶器」はアンソロジー『13の凶器』に収録されているので、再読しているかもしれない

*2:日本版EQMM(Japanese Version)1956/7 No.1-1965/12 No.115参照。

*3:Twitterでは一切アットマークを使わない主義なので、かわりにここでお礼を言っておきます。どうもありがとうございました。