凄い結果の分析?


分析、「ネットの偏差」…で終わらせちゃつまらないですよね。
う〜ん、「ネットの偏差」でいいと思うんだけど……。別の考え方ができないか、ちょっと考えてみますか。
まずその前に状況を整理しておこう。
ミステリ既読調査2005(以下、「既読調査」)*1は『このミステリーがすごい!2006年版』(以下、「このミス」)のリストをもとに行われたものだそうなので、対象作品は「このミス」とほぼ一致している*2はずだ。そこで、「既読調査」の上位10作品の「このミス」での順位と得点を調べてみた。なお、「このミス」では順位は20位まで、得点は12点以上の表章となっているので、それ以下の順位と点数はアスタリスクで表す。*3

  1. 春期限定いちごタルト事件米澤穂信)【第*位/*点】
  2. 容疑者Xの献身東野圭吾)【第1位/341点】
  3. 扉は閉ざされたまま(石持浅海)【第2位/108点】
  4. 犬はどこだ(米澤穂信)【第8位/65点】
  5. 死神の精度(連)(伊坂幸太郎)【第12位/58点】
  6. クドリャフカの順番米澤穂信)【第*位/*点】
  7. 神様ゲーム麻耶雄嵩)【第5位/84点】
  8. ネコソギラジカル(上中)(西尾維新)【第*位/*点】
  9. 魔王(伊坂幸太郎)【第*位/31点】
  10. θは遊んでくれたよ森博嗣)【第*位/*点】

10作品のうち半分の5作品までが「このミス」で21位以下となっているが、「ネットの偏差」を持ち出さなくてもある程度は説明がつく。
まず、『ネコソギラジカル』だが、これは全3巻なのに、「このミス」のリストには下巻が入っていない。下巻は「このミス」対象期間外に出版された*4からだ。これではランクインするはずがない。
次に『魔王』だが、これは10月20日発行。「このミス」の正確な締切日は知らないが、たぶん11月上旬だろうから、これも仕方がない。「このミス」常連の伊坂幸太郎のことだから、発売日があと一ヶ月も早ければ上位に食い込んだかもしれない。
θは遊んでくれたよ』は5月10日発行なので、「このミス」にランクインしていないのは発売日のせいとは言えない。でも、まあ森博嗣だから……。*5
残るは『春期限定いちごタルト事件』と『クドリャフカの順番』。どちらも米澤穂信の作品だ。『春期限定いちごタルト事件』は2004年12月18日発行なので、「このミス」では若干不利かもしれないが、『クドリャフカの順番』は2005年6月30日発行なので、特に問題はなかったはずだ。また、『犬はどこだ』のほうは「このミス」第8位にランクインしているのだから、米澤穂信という作家が特に「このミス」回答者に無視されているというわけではない。
というわけで、状況はだいたい整理できた。どうして『春期限定いちごタルト事件』と『クドリャフカの順番』は「このミス」でこれほど不評だったのか、またはその裏返しで、どうして『春期限定いちごタルト事件』と『クドリャフカの順番』は「既読調査」でこれほど上位に食い込んでいるのかがポイントとなる。
そりゃ、「ネットの偏差」だ!
この明らかな解答から目を背けて、もう少し粘ってみよう。
「このミス」と「既読調査」は、回答者層の違いと調査時期の違いのほかに大きな違いが2つある。

  1. 「このミス」は読んで面白かった作品を回答するが、「既読調査」は面白かったかどうかにかかわらず、単純に読んだ作品を回答する。
  2. 「このミス」で選べるのは6作品までだが、「既読調査」にはそのような制限がない。

ここから仮説を立てるとすれば、たとえば……はっ、何を言わせるんだ!
危ないところだった。
結論を急ごう。
前々からの持論だが、「このミス」方式のアンケート調査には大きな問題がある。それは、回答者が選んだ作品は「読んで、かつ、面白かった」ということがわかるが、回答者が選ばなかった作品は「読んで、かつ、面白くなかった」のか、単に「読まなかった」のかがわからないということだ。もちろん、「このミス」を統計調査として捉えたなら、標本の抽出方法が無作為ではないため母集団の傾向を反映しているとはいえない*6という問題もあるのだが、今挙げたのは統計的処理以前の問題で、各々の回答者の傾向すら判然としないという悲惨なものだ。
従って、「このミス」と「既読調査」を比較することに何の意味もない。「ネットの偏差」を知る役にも立たない。さらにいえば、「既読調査」のようなアンケート調査を行うことに……はっ、何を言わせるんだ!
重ね重ね危ないところだった。

教訓
ネットには危険がいっぱいだ。

*1:トップページ(?)では「ミステリ既読調査 2006年版」と書かれていて1年違っていることに気づいた。

*2:完全に一致しているとはいえない。というのは、「このミス」の投票者はリストから投票作品を選ばなければならないと決められていないからだ。

*3:アンケート結果はすべて公表されているので独自に集計することは可能だが、面倒なのでやらない。

*4:いま手許にある下巻の奥付を見ると11月7日発行になっていた。ああ、早く読まなきゃ。

*5:森博嗣だから」では理由になっていないと憤る人もいるかもしれないが、最近の「このミス」回答者が概して森博嗣に対して冷淡なのは事実だ。

*6:というか、そもそもこの調査の母集団としてどのような層の読者が想定されているのかすら不明だ。