4年間の積ん読

密室の鍵貸します (カッパ・ノベルス―カッパ・ワン)

密室の鍵貸します (カッパ・ノベルス―カッパ・ワン)

カッパ・ノベルスのレーベル内レーベル「カッパ・ワン」第1回配本は、この『密室の鍵貸します』のほか3冊だった。

もしかするとこれは講談社ノベルスの「新本格推理」の再来かもしれない、という期待とともに、まとめて4冊書店のレジへと運んだのが、まるで昨日ことのようだ。結局、その期待は大きく外れたわけだが。
4冊のうち、まずは『双月城の惨劇』から読み始めたが、これがなかなかの難物で、ようやく読み終えたときには、他の3冊を読む意欲がすっかり失われていた。
それから4年近く経ち、『密室の鍵貸します』が文庫落ちした*1後になって、ようやくノベルス版に手をつけることにした。なんだか、もの凄く損をしたような気分だ。
東川篤哉の本は『館島 (ミステリ・フロンティア)』と『交換殺人には向かない夜 (カッパノベルス)』を読んだが、どちらも非常に面白く楽しめた。この2作以前の作品はあまり評価が高くないのでびくびくしながら『密室の鍵貸します』を読んだのだが、なかなか面白かった。ほっとした。
ただ、傑作とまではいえない。
作者が登場人物の前に立っているような語り口はあまり成功しているとはいえないし、文章から滲み出る独特のユーモア感覚は読む人によっては大きな減点ポイントになるだろう。
ミステリ的な仕掛けについていえば、作者がどの程度意識したかはともかく、カーの有名な長篇と、鮎川哲也の有名な中篇をどうしても連想してしまう。もちろんこれが欠点というわけではないが、だからといって美点ともいえない。
では、ミステリとして全然見るべき点がないかといえば、さにあらず。手がかりの提示の仕方が優れている。「あのシーンで出てきたあれとこのシーンで出てきたこれを合わせて考えてみれば明らかに不可解な点があり、それを突き詰めて考えると真相に辿り着くはずだ」という、原理的にはごく単純なネタなのだが、解決シーンで実際にその突き合わせをされてみるまで全然気づかず、意表を衝かれた。
4年前に読んでおくべき本だった。
ところで、『密室の鍵貸します』を読んでいて少し気になったことがある。
24ページ下段に次のような一文がある。


烏賊川市には当然のことながら烏賊川市警察署がある。
全然、当然のことではない。日本中探しても「××市警察署」と名乗っている警察署は一つもない。何かおかしいな、と思いながら読み進めると、45ページ上段に次のような記述があった。

「なあに大した事件じゃないさ。どうせ墜落事故か飛び降り自殺だろ。そんなのは県警に任せとけばいいってこと」
「あ、それ、市警がいう台詞じゃないでしょう。逆ならありうるけど」
どうやらこの世界には、現代日本に市警が存在するようだ。現実とは異なる世界を舞台にした一種のメルヘンだと強調するつもりでこんな設定を導入したのだろうか? よくわからない。