捨てる神あれば拾う神あり

天使が開けた密室 (創元推理文庫)

天使が開けた密室 (創元推理文庫)

富士見ミステリー文庫創刊直後に出版された『激アルバイター・美波の事件簿 天使が開けた密室 (富士見ミステリー文庫)』に短篇「たった、二十九分の誘拐」を併録したもの。元版は読んでいないが、ミステリファンの間では評判が良かった。だからこそ、「激アルバイター・美波の事件簿」シリーズは2冊で打ち止めとなってしまったのだろう。作者が悪かったわけでもなければ、富士見書房が悪かったわけでもなく、強いて言うなら「相性が悪かった」としか言いようがない。
元版は確かセル画風のカバー絵だったと記憶している*1が、今回はたぶん創元推理文庫はじまって以来はじめてミギーを起用している*2。てっきり『荒野の恋』のような雰囲気をもったミステリかと思って読み始めたら全然違った*3ので驚いた。わっ、死体が血を吹くよ!
一種の密室状況で発生した殺人事件に対して、真相以外にダミーの解決が2つ提示される。1つは古典的なトリックを主としたもので、もう1つは特殊な現象を応用したもので、バランスもとれている。6つも7つも解決案が提示される多重解決物のような派手さはないが、推理の構築と崩壊の過程を十分に楽しむことができる。
事前に丁寧に伏線が張られているため、最後に明かされる真相はさほど意外ではない。だが、大筋では驚きを感じなくても細部の詰めの確かさには目を見張る人も多いだろう*4
ビターテイストを薄めてハートフルにした米澤穂信という感じという比喩には少し首を傾げる*5が、それはともく次巻以降も続けて読みたいと思わせてくれる良作だった。

*1:記憶違いだったらごめん、と先に謝っておく。

*2:前例を見落としていたらごめん、とこれまた先に謝っておく。

*3:ただし、ミギーの絵が小説の中身に合っていないということではない。

*4:だが、こういった点に全く関心がない人も、いわゆる「ミステリファン」の中には多数存在することも確かだ。残念だが、これはどうしようもない。

*5:米澤穂信とは別の点で結構ふんだんにビターな要素が盛り込まれているので。