ラベルはlabel、レーベルもlabel

 ここを読む限り、ラベルは物理的なもしくは形而下的なもの、レーベルは心理的なもしくは形而上的なもののようですね。これを踏まえると、少なくとも出版社側はライトノベルを「電撃文庫角川スニーカー文庫といったライトノベルレーベルから刊行されたもの、およびアニメ絵などで表紙をラベリングしたもの」と定義していそうですね。

へぇ、「ラベル」と「レーベル」が元は同じ言葉だとは知らなかった。
ところで、全然関係ないといえば関係ないが、関係あるといえば関係あるかもしれない話。
あるライトノベル作家が書いた中世ヨーロッパ風異世界ファンタジー*1のあるシーンで酒の名称として「ぶどう酒」と「ビール」が出てくるのに違和感を抱いた読者が、その作家のサイン会で「このシーンで『ワイン』ではなく『ぶどう酒』と書いているのは外来語を避けるためだと思うのですが、『麦酒』ではなく『ビール』とそのままにしているのはなぜですか?」と尋ねたところ、その作家は「『麦酒』だとビールかエールか区別がつかないからです。中世では麦で作った酒としてはエールのほうが一般的だったのですが、このシーンでは当時エールより安酒とみなされていたビールを出したかったので、『麦酒』を避けたのです」と答えた。
この話を聞いて、大部分の読者が全く気にとめないような細部にまで心配りをしていることに感心した。
あとで調べてみると、エールもビールの一種らしい。

ただ、現在では単に「ビール」といえばラガービールを指すので、次のように表すこともできる。

「麦酒」と書いたのでは広義のビールを表すことになり、「(狭義の)ビールかエールか区別がつかない」というのが、件の作家の言いたかったことではないかと推測するが、下戸には酒のことはわからないので、何かとんでもない間違いをしでかしているかもしれない。
この話はこれでおしまいにして、最後に定義の話。
これは前にも言ったことがあると思うのだが、定義論争が紛糾する理由の一端は「定義」が定義されていないことにある。こんな初歩的なところで足下がぐらついていては、ライトノベルの定義などできるはずがない*2
ついでにもう一つ、いや、「ついで」というよりむしろこっちのほうが重要だと思うのだが、定義によって物事の理解が深まることは稀で、たいていの場合は定義など不要だ*3と強く主張しておきたい。たとえば「『銀河英雄伝説』はライトノベルか?」という問いについて考えるときには、『銀河英雄伝説』がライトノベルによく見られる/あまり見られない要素をどの程度含んでいるかを検討すればいいのであって、その際に必要な道具立ては、ライトノベルによく見られる要素のリストとライトノベルにあまり見られない要素のリストであって、「ライトノベルの定義」などというものではない。場合によっては、ライトノベルによく見られる/あまり見られない要素の諸リストによく見られる/あまり見られない要素のリストも必要になってくるかもしれないが、そのようなリストもまた「ライトノベルの定義」ではない。

*1:うろ覚えの話なので間違っているといけないから、ここでは作家名と作品名は伏せておく。

*2:なお、誤解のないように言い添えておくと、「ライトノベルの定義について実りある議論を行うために、『定義』を定義せよ」と主張しているわけではない。

*3:物事について理解を深めるのとは別の理由で定義が必要になることはある。たとえば統計調査を行うときなど。