蛯沢真冬 孤独のアリア

さよならピアノソナタ〈2〉 (電撃文庫)

さよならピアノソナタ〈2〉 (電撃文庫)

前作『さよならピアノソナタ』を読んだとき、感想文の最後に次のように書いた。

ともあれ、”EBISAWA Mafuyu Off the Record”は終わった。次は当然、”EBISAWA Mafuyu On the Record”だろう。帰国して本格的に音楽活動に戻った真冬の音楽家としての苦悩、壁、業そして情念。一方、芸術の世界に外から間接的にしか触れることのできない評論家、ナオ。二人の関係はどう交差し、あるいは交差せずに進むのか? 大いに期待したい。

この予想は大きく外れた。どういうふうに外れたのかを説明しようとすると、作品の内容に触れることになってしまうので控えておくが、とにかく全然別の方向へと話が進んでいった。当たったのは、蛯沢真冬のモデルがグレン・グールドだろうという想像*1くらいだった。
予想が外れたのは残念だが、お話そのものは面白く読めた。ある種のラヴコメがもつ様式美、随所に挟まれた小ネタの妙、そして「音」を手がかりとした探索シーン*2。ひとつひとつの要素を挙げていけば、いいところは沢山ある。
でも、なんだかちょっと手放しで絶讃できない。1巻より完成度はあがっているように思うが、その分何かが失われているような気がするのだ。
読んでいる最中は非常に面白く、読んだ後にはすがすがしい余韻が残る。では、その上に何を求めようというのか?
 それがうまく言い表せないので困っている。
でも、この「何かはわからないが、足りないものがある」という感じが、杉井光の持ち味のひとつなのではないかとも思う。満月よりも十三夜のほうが味わいがあるようなものだ。だからこそ、一度杉井光の小説を読み始めると、続きが待ち遠しくなるのかもしれない。
続きが待ち遠しい、といえば、早く『神様のメモ帳』再開しないかなぁ。

*1:「そんな想像、どこにも書いていなかったぞ?」と思った人は前回の感想文の見出しを見てください。「蛯沢真冬 15歳の記憶」は、「グレン・グールド 27歳の記憶 [DVD]」の捩りです。これは、若き日のグールドを扱ったドキュメンタリー映画で、「Off the Record/On the Record」の2部構成になっています。

*2:その手がかりは当然のごとく前半で張られている。この手堅さは評価に値する。