「フェルメール展」の音声ガイドで聴いた音楽の話

先日、コミケのついでに東京都美術館「フェルメール展 光の天才画家とデルフトの巨匠たち」*1を見てきた。人がいっぱいだった。
今回の目玉はフェルメールの作品が日本初公開の5点を含めて7点も出品されるということだった。後の話の都合もあるので、図録掲載順に紹介しておこう。

  1. マルタとマリアの家のキリスト
  2. ディアナとニンフたち
  3. 小路
  4. ワイングラスを持つ娘
  5. リュート調弦する女
  6. 絵画芸術
  7. ヴァージナルの前に座る若い女
  8. 手紙を書く婦人と召使い

この中で、「絵画芸術」はかつて「画家のアトリエ」として知られた作品で、2004年に来日したときには、フェルメール「画家のアトリエ」 栄光のオランダ・フランドル絵画展と、展覧会のタイトルにもなっている*2が、今では「絵画芸術」ないし「絵画芸術の寓意」と呼ばれることのほうが多いようだ。残念ながら、展覧会開催直前になって出品不可となっている。
その代わりに追加された……というわけではない*3が、土壇場になって出品の決まった「手紙を書く婦人と召使い」は図録掲載が間に合わず、別紙が挟み込まれている。展覧会場でも「特別出展作品」として紹介されていたが、別に展覧会の趣旨に鑑みて特別だということではなく、単に展示番号を付番した後に出品が決まった「番外」だという程度の意味だろう。
さて、ここからが本題。
この「フェルメール展」では、音声ガイドに工夫が凝らされている。音声ガイドで単に作品解説を行うだけでなく、さまざまな趣向を盛り込んで付加価値をつけるのは最近の展覧会では珍しいことではなく、たとえば、先日紹介した「対決−巨匠たちの日本美術」の音声ガイドのように、かなり大胆な趣向のものもある。それに比べると「フェルメール展」のほうはややおとなしくて、出品されているフェルメールの各作品に音楽をつけているだけだが、すべてこの展覧会のために作曲されたもの*4だというから凄い。
音声ガイド機を借りたときに渡されたガイドシート*5には、テーマ曲以外の曲名が書かれていないので、便宜上、絵画作品名と作曲者を対照した表を作ってみた。

タイトル 作曲者
フェルメール展テーマ曲「奇跡の光」 余田有希子
マルタとマリアの家のキリスト 飯田能里子
ディアナとニンフたち 余田有希子
小路 金惠貞
ワイングラスを持つ娘 余田有希子
リュート調弦する女 村上史郎
絵画芸術 ???
ヴァージナルの前に座る若い女 石田多朗
手紙を書く婦人と召使い (音楽なし)

「手紙を書く婦人と召使い」に音楽がないのは、出品が決定したのが展覧会開始直前で作曲が間に合わなかったのだろう。だとすると、同じく直前で出品不可となった「絵画芸術」のための音楽が作曲されていたはずだが、出品されていない作品のガイドがあるわけもなく、聴くことができなかった。もったいない話だ。
音声ガイドでは解説にあわせて音楽が途中まで演奏されて途切れてしまう。全曲の入ったCDがないかと思ったが、展覧会場のグッズ売り場では見あたらなかった。だが、それらの音楽はインターネットで聴けるということだったので、帰ってから早速OTTAVA meets Vermeerアクセスしてみたのだが……。
あ、あれ? 会場で聴いた音楽と違うような……???
今アップされているのは、

なのだが、「奇跡の光」は聞き覚えがある*6が、あとのふたつは記憶にあるのと全然違う。というか、「同時代のバロック音楽」のほうだったんでは……?*7
そういえば、「ヴァージナルの前に座る若い女」の音楽が「涙のパヴァーヌ」そっくり*8で変だな、と思ったことを思い出した。
そこで、「フェルメール展」「音声ガイド」「音楽」で検索して調べてみたのだが、わずかに

今日の美術館巡りの目玉。もちろん音声ガイドも借りた。この音声ガイドが従来のものとはちょっと変わっていて、「iタッチ・ガイドシート」という。音声ガイドのある絵画がカラー印刷された紙を渡され、絵の部分を鉛筆のような機械でタッチすると、ヘッドホンから解説が流れるというもの。♪(音符)マークをタッチすると芸大音楽環境創造科(の学生? 教官?)の作曲した楽曲が流れる。

という記述が見つかった程度。あれだけわんさか人が集まっていながら、音楽に耳を傾ける人がほとんどいないとは……。みんな美術館に何しに行ってるんだ!
……冗談はさておき、この件はちょっと気になるので、これから「フェルメール展」に行く人は、音声ガイドの音楽が東京藝術大学の学生たちが作曲したオリジナル楽曲なのか、確かめてきてください。

*1:リンク先は東京都美術館フェルメール展のページ。ほかに朝日新聞社のサイトTBSのサイトもある。

*2:このとき神戸市立博物館に見に行って、1枚だけ仰々しく別室に飾られていたのをみて「なんだかなぁ」と思ったことを覚えている。

*3:ここで書かれている。

*4:展覧会のテーマ曲を作曲した例なら過去にもある。

*5:よくある、ガイド番号を入力すると解説が聴けるという方式ではなくて、ガイドシートに印刷された絵画にペン先をあてると解説が始まるという方式だった。GLD Japani-タッチペンという製品らしい。ちなみにこの会社、設立は「2008年2月吉日」だそうだ。

*6:古楽器ヴァージョンだったような気がする。

*7:OTTAVA meets Vermeerの柱部分には「イヤホンガイドでは、展示作品ごとに選曲されたフェルメールと同時代のバロック楽曲と、作品をイメージして東京藝術大学の学生たちが作曲したオリジナル楽曲が、BGMとして使用されています」と書かれている。

*8:ただし、リュートではなく、ヴァージナルで演奏されていた。