Vexations,Knickers,そして……

建設の是非を検証中の八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)を巡り、国土交通省関東地方整備局が集めたパブリックコメント(意見公募)で、寄せられた意見の約96%が同一文書に署名だけ手書きしたものだったことが分かった。「八ッ場ダムは必要不可欠」などと印刷され、ダム推進派が組織的に署名を呼びかけた可能性が高い。ダム反対派は「世論誘導の狙いがあるのではないか」と反発。専門家は「パブリックコメントの趣旨から逸脱した行為」と批判している。

【略】

同整備局は「パブコメは多数決ではないので、特に問題はない」と説明しているが、八ッ場ダム建設に反対する市民団体「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表は「世論誘導のため組織的に署名を集めたと思われる。非常に問題だ」と話している。【奥山はるな】

本題からは外れるが、この記事、何だか変だ。冒頭の段落に出てくる「専門家」の名前がどこにも書かれていない。パブリックコメントの専門家というのがどういう筋の人なのかはわからないのだが、行政学者か行政法学者だとすれば、別に名前を伏せることもないだろうに。「パブリックコメントの趣旨」がどのようなものであるのかについてのコメントも記事に入れてほしかった。まさかとは思いますが、この「専門家」とは、奥山はるな記者の想像上の存在にすぎないのではないでしょうか、と林先生の名言を捩ってみたくもなろうというものだ。そういえば、この記者の名前も出来過ぎではないか。榛名山といえば群馬県を代表する山のひとつだ。まさかとは思いますが、この「奥山はるか」とは、毎日新聞社前橋支局の記者のハウスネームにすぎないのではないでしょうか。あ、実在するみたい。
閑話休題
この記事で取り上げられているパブリックコメントの結果はここで公表されている。

去る平成23年10月6日(木)から11月4日(金)までの30日間、「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書(素案)」に対するパブリックコメントを行い、ご意見を募集したところ、全国から延べ5,963名※1のご意見を頂きました。

※1このうち、同一意見を署名形式で提出された方が5,739名おりました。

個々の意見についてはPDFファイル14分割で掲載されているのだが、そのうち最初の2つのファイルに収録されているNo.1〜214がふつうの意見で、残りのNo.215〜5963までが同一意見だ。5963件もの意見を個人情報を隠してPDF化するのは大変だったろう。数が数だけにごくろうさん(5963)。
ところで、このパブコメの意見募集要項をみると、次のように書かれている。

ご意見は別紙の意見提出様式にできるだけ200文字以内で記載して下さい。

これも「パブリックコメントの趣旨から逸脱」しているのではないかと思う。八ッ場ダム建設事業という大きな問題について、たかが200文字程度で有益な意見が得られるわけもないのだから。長文を読むのか面倒だからなるべく短めにしてほしいという気持ちはわかるのだが、書きたいことがいっぱいある人はどうせ200文字などという目安は無視するに決まっているのだから、抑止力を持たない。それよりも「パブコメは多数決ではない」と強調しておいたほうがよかったのではないだろうか。
先日、「2分でOK!」のテンプレパブコメの悪夢 - 一本足の蛸という文章を書いたが、最後は次のように締めくくった。

この件に限らず、パブコメに応じて意見を送ろうと思う人は、パブコメの本旨をよく理解のうえ、民主主義社会の一員としての自覚と節度を持って行動してほしい。

同じことをパブコメを実施する行政側の人にも求めたい。

余談

今日の見出しは、エリック・サティの有名なピアノ曲のタイトルと、S・ロバーツという無名の小説家(?)の小説のタイトルから。前者については、ヴェクサシオン - Wikipediaを、後者については、サイコドクターぶらり旅 - 自転車通勤を志す , 栗本薫の大河小説「グイン・サーガ」が100巻達成または世界最長の小説『ニカーズ』に怒れ - 愛・蔵太のもう少し調べて書きたい日記を参照のこと。