図書館の自由が侵されるとき

図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。【略】この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する。

第1 図書館は資料収集の自由を有する
【略】
第2 図書館は資料提供の自由を有する
【略】
第3 図書館は利用者の秘密を守る
【略】
第4 図書館はすべての検閲に反対する
【略】

図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。

  1. 図書館の自由の状況は、一国の民主主義の進展をはかる重要な指標である。図書館の自由が侵されようとするとき、われわれ図書館にかかわるものは、その侵害を排除する行動を起こす。このためには、図書館の民主的な運営と図書館員の連帯の強化を欠かすことができない。
  2. 図書館の自由を守る行動は、自由と人権を守る国民のたたかいの一環である。われわれは、図書館の自由を守ることで共通の立場に立つ団体・機関・人びとと提携して、図書館の自由を守りぬく責任をもつ。
  3. 図書館の自由に対する国民の支持と協力は、国民が、図書館活動を通じて図書館の自由の尊さを体験している場合にのみ得られる。われわれは、図書館の自由を守る努力を不断に続けるものである。
  4. 図書館の自由を守る行動において、これにかかわった図書館員が不利益をうけることがあっては ならない。これを未然に防止し、万一そのような事態が生じた場合にその救済につとめることは、 日本図書館協会の重要な責務である

図書館の自由に関する宣言(以下、「自由宣言」)には以前から若干の違和感があった。内容にケチをつけたいわけではないが、その書きぶりが何というかヒロイズム丸出しで、なんだか悪酔いしそうな感じがするからだ。まあ、そのヒロイズムが幸いして、『図書館戦争』シリーズが生まれたとも言える*1が、いくら威勢よく高らかに宣言したところで、図書館の自由が侵されそうになったとき、たたかう牙も爪もないでしょうに、と言ってみたくもなるのだ。
たとえば、このケースでどうやって図書館の自由を守るのか?

僕はね、一言も法令を無視するとも「図書館の自由に関する宣言」を無視するとも言っていないんですね。そもそも、この図書館の自由に関する宣言がまたくせ者。「図書館の自由に関する宣言」「図書館員の倫理綱領」に反する、という意見も見られましたが、中身そのものも僕は話にならないと考えている。まぁこれはいろんな人のいろんな考えがあるでしょう。問題はこの宣言の立ち位置。この宣言は日本図書館協会という図書館関係者の「部分社会」(法学用語)の宣言で、一般社会には法規性は何らないんですよね。図書館関係者で議論や宣言するときはいいのですが、今回のように市民を巻き込んだ話になると、法や武雄市条例に照らしてどうか、という点が重要で、個人情報の問題などはそれで十分議論・整理できると思います。その中で、今回の提携におけるいろんな情報の扱いに関しては、今までの市立図書館の情報の扱いを参考にしながら、別途、これは利用者にとって大切な点なので、武雄市議会での議論の一方で、武雄市立図書館が管理する個人に関する情報の問題である以上、武雄市個人情報保護条例第27条に基づく個人情報保護審議会で議論してもらいます。

これは、書いた本人の意図はどうであれ、図書館側からすれば宣戦布告に等しいと思われるが、さててどう立ち向かうのか? 自由宣言は「一般社会には法規性は何らない」とすっぱり切り捨てられている。この文章全体の論調には首を傾げるところもある*2のだが、自由宣言に法規性がないという指摘には反論が難しいだろう。
公共図書館日本国憲法によって保障された国民の基本的人権を具体的な形で担保するための施設であるとするなら、本来、自由宣言に謳われているような事柄は図書館法に規定しておくべきことではないか。しかし、たとえば自由宣言の第3に対応するような、図書館職員の守秘義務規定は図書館法には盛り込まれていない。
これは考えてみればおかしな話で、たとえば弁護士の守秘義務弁護士法に規定されておらず、ただ日本弁護士連合会弁護士職務基本規程*3のみに規定されていたらどうだろう? 「弁護士には守秘義務があるので依頼人の秘密を漏らすことはできません」「弁護士職務基本規程は『部分社会』の規程で、一般社会には法規性は何らないんですよね」てなことになってしまいかねない。
図書館関係者は自由宣言の理念を図書館法その他の法令に反映させるための努力をしてこなかったのだろうか? それとも、努力はしたが政治力不足で叶わなかったのだろうか? そんな疑問がふと浮かんだ。

*1:図書館戦争』シリーズは読んだことがないので、その内容についての論評は当然のことながら差し控える。

*2:貸出履歴が個人情報の保護に関する法律上の「個人情報」に当たるか否かはともあれ、地方公務員法第34条第1項の「職務上知り得た秘密」に該当するのは確かだと思われるので、公務員に代わって指定管理者が業務を受け持ったときに地方公務員法の適用がなくなり、保持される秘密のレベルが個人保護法上の「個人情報」まで切り下げられてしまうのは問題ではないかと思われるのだが、その論点についての検討が欠落していることなど。

*3:日弁連のサイト内ではPDFファイルで掲載されていたので、本文では別のサイトにリンクした。