カレーライスと鳥取人

野性時代 vol.39 (2007 2) (39)

野性時代 vol.39 (2007 2) (39)

今回『野性時代』を買ったのは、米澤穂信の「手作りチョコレート事件」を読むためで、その感想文はもう書いたので用は済んだのだが、せっかく桜庭一樹特集が組まれているのだから通読してみたところ、いくつか興味深い点が見受けられた。それらすべてについて一々感想を書く余裕はないけれど、一点に絞って感想を書いてみようと思う。

鳥取は県民一人当たりのカレールーの消費量が日本一らしいです。そういえば小学生のころ、下校中にどこかの家から必ずカレー臭がして、それを嗅ぐと「はやくうちに帰ろう」と駆け足になりました。うちでも月に三度は食べてました。しかしみんな家で食べるせいか、町にカレー屋はほとんどありません。あと、そんなにもカレー育ちの割には小説にカレーが出てきたことも一度もない。*1
鳥取県民のカレールー消費量が日本一だというのは、記憶違いか情報の入手先が不正確だったか、どちらかだと思う。というのは、この情報の出所を辿っていくと、たぶん総務書統計局が実施している家計調査に行き着くだろうからだ。

  1. 家計調査からみた品目別支出金額及び購入数量の県庁所在市別ランキング(平成15〜17年平均)
  2. 家計調査からみた品目別支出金額及び購入数量の県庁所在市別ランキング(平成14〜16年平均)
  3. 家計調査からみた品目別支出金額及び購入数量の県庁所在市別ランキング(平成13〜15年平均)

1のリンク先は毎年更新されているらしいので、近いうちに平成16〜18年平均のデータに置き換わることだろう。2と3は国立国会図書館インターネット情報選択的蓄積事業によるもの。カレールー*2のランキングは「油脂・調味料」のファイルに入っている。1〜3のどれを見ても、鳥取市が金額・数量ともに1位となっている。
リンク先の見出しを見れば明らかなように、このランキングは都道府県別ではなくて県庁所在市別だ。家計調査の調査規模では県全体を代表するだけの標本が確保できないので、標本数の多い県庁所在市と川崎市北九州市のデータだけを抜き出して順位づけを行っている。したがって、仮に下関市旭川市などでカレールーがどれだけ消費されていても、このランキングには出てこない。
どの県の人がカレールーをいちばん消費しているのかがわからなくても別に大きな問題が生じるわけではないが、品目によっては県全体の消費傾向が重要となることもあるだろう。そこで、家計調査とは別に全国消費実態調査という調査が行われている。この調査は家計調査よりも規模が大きい分、費用も嵩むので、毎月ずっと調査するわけにはいかない。そこで、5年に一度、3ヶ月のみ実施されている。
食品の消費動向は季節によってかなり異なるので年間データがないのは辛い。また、家計調査では支出金額と購入数量の両方を調査しているが、全国消費実態調査では支出金額しか調べていない。だが、ないものは仕方がない。直近の平成16年全国消費実態調査品目結果表(第1表)から、<二人以上の世帯>の全世帯について、1世帯あたり1ヶ月にカレールーに支出する金額を抜き出し、多い順に並べ替えてみた。

順位 都道府県 金額
1 秋田県 129
2 鳥取県 126
3 岩手県 125
3 石川県 125
5 埼玉県 124
6 宮城県 122
7 神奈川県 121
8 兵庫県 120
8 佐賀県 120
10 福島県 118
10 茨城県 118
10 新潟県 118
13 長野県 117
13 奈良県 117
15 群馬県 116
15 千葉県 116
15 和歌山県 116
18 青森県 114
18 山梨県 114
18 滋賀県 114
21 静岡県 113
21 大阪府 113
23 京都府 112
23 島根県 112
23 福岡県 112
26 愛媛県 111
26 沖縄県 111
28 栃木県 109
28 三重県 109
30 山形県 108
30 東京都 108
30 熊本県 108
33 広島県 107
33 長崎県 107
35 北海道 105
35 宮崎県 105
37 福井県 104
37 岡山県 104
37 山口県 104
40 愛知県 103
40 徳島県 103
40 高知県 103
40 大分県 103
44 鹿児島県 100
45 香川県 97
46 富山県 96
47 岐阜県 92

ああ、残念! わずか4円の差で秋田県に首位を奪われてしまった。
ついでに、<二人以上の世帯>の勤労者世帯についても同じ仕方で表を作ってみた。

順位 都道府県 金額
1 鳥取県 140
2 石川県 137
3 奈良県 136
4 兵庫県 132
4 和歌山県 132
6 佐賀県 131
7 埼玉県 130
7 新潟県 130
9 宮城県 129
10 秋田県 128
10 神奈川県 128
12 岩手県 127
13 長野県 125
13 福岡県 125
15 島根県 124
15 沖縄県 124
17 群馬県 123
17 静岡県 123
17 大阪府 123
17 愛媛県 123
21 茨城県 122
21 山梨県 122
21 山形県 122
21 岡山県 122
25 福島県 121
25 千葉県 121
25 京都府 121
28 東京都 120
29 青森県 118
29 長崎県 118
29 宮崎県 118
32 北海道 116
32 山口県 116
34 滋賀県 114
34 広島県 114
34 徳島県 114
34 大分県 114
38 栃木県 113
38 鹿児島県 113
40 三重県 112
40 熊本県 112
42 福井県 111
43 高知県 109
44 愛知県 108
45 富山県 107
46 香川県 105
47 岐阜県 103

今度は鳥取県が1位となった。
先にも触れたとおり、これはカレールーを購入するのに費やした金額のランキングなので、この順位が消費量に直結するわけではない。カレールーの値段次第では順位が入れ替わる可能性もある。また、単身世帯は数のうちに入っていないし、1世帯あたりの世帯員数も考慮外だ。よって、鳥取は県民一人当たりのカレールーの消費量が日本一、と断言はできない。しかし、少なくとも鳥取県民は全国でも有数のカレールー消費者である、という程度のことは言ってよいだろう。
調べてみると、カレーでまちおこしを目指して、鳥取カレー倶楽部などという団体が結成され、さまざまなイベントが行われているらしい。でも「鳥取カレー」なんて聞いたこともないよ? カレールーの消費が多いからといって、カレーでまちおこしをするのは、ちょっと無理があるように思う。
先の家計調査のランキングには「外食」という区分もあり、平成15〜17年平均だと鳥取市が最下位となっている。要するに、鳥取市民は外食にあまり金を使わない。全国消費実態調査では鳥取県は<二人以上の世帯>の全世帯で36位、勤労者世帯では39位だった。つまり、鳥取県民は概して外食にあまり金を使わない。
では、カレー屋の店舗数は?
残念ながら、そのような細かい統計データは存在しないが、平成16年事業所・企業統計調査都道府県別集計によると、平成16年6月1日現在の鳥取県内の「食堂,レストラン」は1012事業所、そのうちカレー料理店が含まれる「その他の食堂,レストラン」はわずか22事業所しかない。それぞれ全国順位では47位と45位だ。カレーは「一般食堂」のメニューにも入っているだろうが、「一般食堂」の数は392で、これも全国47位。
ちなみに、平成12年及び17年国勢調査結果による補間補正人口(平成16年10月1日)により算出した人口千人あたりの事業所数では、鳥取県は「食堂,レストラン」で30位、「一般食堂」で22位、「その他の食堂,レストラン」で30位となった。対人口比だとそれほど少ないわけではないようだ。
いろいろ書いてきたけれど、別に何かひとつの結論に向かって論じてきたのではない。だから、どうやって締めくくればいいのか迷うのだが、いつまでもだらだらと書き続けるわけにもいかないので、最後に思いつきを一言書いて終わりにしよう。
カレールーと板チョコレートは見た目がよく似ている。

*1:野性時代vol.39』「特集 桜庭一樹 愛と煩悩のワンダフルワールド」から「桜庭一樹二都物語 〜東京−鳥取往還エッセイ〜」59ページ。

*2:家計調査では「カレールウ」と表記するが、この文章では「カレールー」で統一する。