図書館で商店街は再生するか?

「本気にしてはいけません」ということなので、半分冗談を交えて考えることにしよう。
衰退した商店街の空き店舗に図書館を誘致するためには、クリアすべき課題*1がいくつかある。
たとえば、本をどこから調達するのか。公共図書館にせよ大学図書館にせよ、そう簡単に蔵書の寄託*2に応じてくれないだろうと思われる。図書館からの協力を引き出すには、分館ないし分所の設置が、単に商店街の活性化に資するだけでなく、図書館側にもメリットがあるということを示さなければならないが、具体的にどのようなメリットが考えられるのか、ちょっと想像しづらい*3
いっそ、既成の図書館はあてにせずに、一般市民からの寄贈や古書店からの購入により蔵書を賄うほうが、いくらかは現実的かもしれない。ただし、類似した機能の施設が並存することになり、傍目には無駄が大きいように見える*4のではないだろうか。ちょうど市営バスとコミュニティバスのように。
また、首尾良く本の調達ができたとしても、果たして労力と費用に見合うだけ人が集まるかどうか、という問題もある。図書館は基本的に無料*5だから、費用に見合う収益を得ることはどだい不可能だが、でも、便益を考えずにじゃぶじゃぶ資金を投入することはできない。図書館の便益をどう計算すればいいのかは知らない*6が、多少とももっともらしい数値を捻り出せる程度に人が増えないとまるで話にならないのは明らかだ。
今挙げたふたつの問題をざっとみるだけでも前途は暗いが、さらに大きな問題がある。それは、家主が空き店舗を貸してくれるかどうか、という問題だ。
シャッターを閉めて遊ばせておくくらいなら、たとえ雀の涙ほどの賃料でも貸してくれるだろう、と考えるのは甘い。中小企業庁空き店舗所有者の意識等に関する調査・研究報告書(概要版)【PDF】によれば、空き店舗所有者114人のうち「賃貸したい」と回答した人は86人で、「賃貸する意思はない」と回答した28人を大きく上回っているものの、同じく114人のうち14人が「経済的に全く困っていない」、96人が「将来に不安はあるがそれほど困っていない」と回答しており、「とても困っている」と回答したのはわずか4人だったそうだ。何が何でも店舗を貸したいという人よりも、雀の涙ほどの賃料で我慢するくらいならシャッターを閉めて遊ばせておいたほうがましだ、と思っている人のほうが多いと思われる*7
もうひとつ、これまでに挙げたのとは別のレベルの話だが、行政の再開発指向ないし嗜好にも触れておこう。
沈滞化した中心市街地を活性化するために、再開発して公共施設を設置するという発想はよく見られるもので、地方都市の駅前などにコンサートホールやら市民ギャラリーやらが詰まったやたらと立派なビルが建っているのを見かけるのは珍しくない。図書館だと、コンパクトシティ構想で知られる青森市には中心市街地活性化の成功事例として知られるFestival City AUGA*8に入居している青森市民図書館の例がすぐに思い浮かぶ*9
行政主導の中心市街地活性化策は必ずしも再開発ビルの建設に限られるわけではないが、商店街の空き店舗を利用した図書館分館・分所の設置という構想に対して行政から何らかの支援を引き出そうとするなら、大図書館主義vs.小図書館主義*10の抗争が勃発する可能性を考えておいたほうがいいだろう。行政抜きで、民間スポンサーを募ってNPO主導でやるほうがいいかも……。
以上、半分冗談の戯れ言でした。本気にしてはいけません。

*1:むしろ、クリアできない障碍と言いたい気もするが、最初からそう後ろ向きな発想ではいけないので、本文では「課題」と書いた。

*2:既成の図書館の分館ないし分所と位置づければそこに置く本は単に置き場所を変えるだけだが、本館の立場から考えれば長期貸出も同然だから猛反発されることが考えられる。

*3:観念的なメリットならいくらでも思いつくのだが……。

*4:実際、大きな無駄が発生するのではないかと思う。

*5:図書館法第17条により、公立図書館は利用料を徴することができないが、このあたりを読むと結構微妙な問題がありそうなので、「基本的に」という語を入れることにした。

*6:それぞれの本の価格に貸出回数を掛けて合計する、という恐るべき計算方法を聞いたことはあるが……。一般の公共図書館ならそれでよくても(よくない!)、今検討している図書館は、それを設置することで人通りが増えて各商店の売り上げが増えることを期待しているのだから、この計算方法では全く役に立たない。

*7:ただし、データに基づく厳密な分析の結果ではなく、多分に主観的な思いこみが入っていることに注意されたい。なお、この話題については駐車場料金はなぜ下がるのかも参照されたい。

*8:でも、運営会社が多額の債務を抱えて破綻寸前であることが今年5月にわかった。ちなみに、アウガ - Wikipediaによれば、この名称には津軽弁の「会うが(会おうよ)」の意味が含まれているそうだ。「あれ、なんか似たような例があったような……?」と思って調べてみると、AOSSAがそうだった。AOSSA - Wikipediaによれば、福井弁の「会おっさ(会おうよ)」だそうだ。ああ、何ということでしょう!

*9:すぐに思い浮かぶのは実際に行ったことがあるから。傍を通りかかったことしかないのですぐには思い浮かばなかったが、前註で言及したAOSSAには福井市立桜木図書館が入居していることをさっき知った。ほかにも似たような例は多数あると思う。

*10:いま思いついた言葉なので、厳密な定義などありません。